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囚われの世界/H.ハリスン

Captive Universe/H.Harrison

1969年発表 島岡潤平訳 サンリオSF文庫9-B(サンリオ)

 アステカ人たちの暮らす谷の中は偽りの世界だったわけですが、それが細部に至るまで丁寧に描かれていることで、真相が明らかになった時の落差がより強烈なものになっているところが巧妙です。また首席僧侶の死に際して、太陽が昇らないという、偽りの世界なればこその現象が起きているのも印象的です。徘徊するコアトリクェと並んで、アステカ人たちの神話的世界観を補強するのに大きく役立っているといえるでしょう。

 その偽りの世界を飛び出したチマルの行動さえも、“大創造主”の計画通りだったというところに、何ともいえない悲哀が感じられます。実際には、一種の“雑種強勢”が知能や思考力の面でこれほど劇的に表れるとは思えませんが、チマルの行動の背景に(一応)の理論的な裏付けがあるところがよくできていると思います。

 谷の中の世界に関する欺瞞を知ったチマルは、さらに外の世界でも、宇宙船が目的地であるはずのプロクシマ・ケンタウリに向かっていないというもう一つの欺瞞に遭遇します。衝撃を受けたチマルにとって、強引に“到着の日”を始めることができたのは大きな救いでしょう。しかし、宗教的な規律に縛られた監視者たちと、変化についていけないアステカ人たちの中にあって、彼の孤独には依然として終わりが訪れません。一見微笑ましいラストも、それを強調しているように感じられます。

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 余談ですが、山田正紀の某作品(作品名は完全に伏せておきます)は明らかに本書を下敷きにして書かれたものと思われます。両者を読み比べてみるのも面白いでしょう。個人的には、どちらもそれぞれによくできていると思います。

2003.06.14読了

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