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捕虜収容所の死/M.ギルバート

Death in Captivity/M.Gilbert

1952年発表 石田善彦訳 創元推理文庫238-02(東京創元社)

 本書のミステリ的な面白さの中心はやはり、森英俊氏が解説で指摘している4つのポイント――二重の犯人捜し、二重の不可能状況、二重のデッドライン、二重の謎解き――にあるといえるでしょう。本格ミステリと脱走サスペンスというプロットの二重構造に歩調を合わせるかのように、様々な二重構造が導入されているところが、趣向としてよくできていると思います。

 トンネルの中の不可能状況については、“秘密の通路”という拍子抜けの真相が用意されています。が、ルーレット盤を使った見せ方は実に鮮やかですし、何より巧妙に思えるのは、脱力する暇もなく直ちに別のスリル――脱走用のトンネルの存在が、当局に見抜かれているという危機――にすりかわってしまう点です。作者は、本格ミステリと脱走サスペンスという両輪を巧みに使い分けることで、緊張感を途切れさせることなく、クライマックスへ向けて物語を盛り上げていくことに成功しているといえるでしょう。

 最後に明らかにされるスパイの正体も見事ですが、特にシェルトン校出身であるポッター少尉の立場ががらりと反転してしまうのが、強く印象に残ります。

2004.04.29読了

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