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死体をどうぞ/D.L.セイヤーズ

Have His Carcase/D.L.Sayers

1932年発表 浅羽莢子訳 創元推理文庫183-08(東京創元社)

 ハリエットの証言から被害者の死亡時刻を決定した上で、これでもかといわんばかりに仮説の構築と破棄を繰り返した挙げ句、血友病という予想もしなかった真相を持ち出して状況を根本から覆してしまう豪腕に脱帽です。

 ピーター卿が596頁~597頁で列挙した1~11の手がかり(11は違うか)があるのでおおむね納得できるところではありますし、あまりにも複雑な綱渡りのアリバイ工作を想定する必要がなくなってすっきりするのは確かですが、終盤近くまでの推理のプロセスが一瞬で無用になってしまう脱力感が強烈。ピーター卿とハリエットが繰り広げる推理合戦が本書の見どころの一つではあるのですが、さすがにこの真相を一度知ってしまうと、そのあたりをもう一度じっくりと読み直す気力はわきません(苦笑)

 なお、ピーター卿はアレクシスの血友病がロマノフ王家から伝わった可能性があると示唆しています(597頁)が、ロマノフ王家の血友病はニコライ二世の后・アレクサンドラ(ヴィクトリア女王の孫)に由来する(「ヴィクトリア女王の子孫たちと血友病の遺伝」「系図の迷宮」内)を参照)ものですから、この二人の子孫でないアレクシスにそれが伝わるはずはありません*。このあたりは作者の勇み足でしょうか。

*: アレクシスがロマノフ王家の子孫ではないという意味ではなく、あくまでもアレクシスの血友病がロマノフ王家とは無関係ということです(565頁の系図が正しいとすれば、アナスタシアの母親由来かと思われます)。

2007.04.10読了