ネタバレ感想 : 未読の方はお戻り下さい
黄金の羊毛亭 > 掲載順リスト作家別索引 > ミステリ&SF感想vol.92 > 銀のカード

銀のカード/ボアロー,ナルスジャック

Carte Vermeil/P.Boileau & T.Narcejac

1979年発表 岡田正子訳 ハヤカワ・ミステリ1364(早川書房)

 本書では読者に対して、視点の固定による罠が仕掛けられています。ミッシェルの手記に書かれているのは、日常生活を通じてミッシェルが作り上げた物語であり、読者はミッシェルの視点/思考という“フィルター”を通して事件を体験することになるため、リュシイルが殺人犯だという“ミッシェルの物語”に囚われてしまうのです。他の人物が犯人である可能性など、ミッシェルの頭には浮かんでもいないのですから。

 その“フィルター”がエピローグで一気に取り払われ、ミッシェルの物語の裏で(クレマンスらによる)別の物語が進行していたことを明らかにするという手法は、実に鮮やかです。被害者たちそれぞれの相続人に動機があり、クレマンスに機会と手段があるというのは、十分納得できるところです。

 何とか生き延びたミッシェルですが、よりによってクレマンスの待つ〈ヴァル・フルーリ〉へ移ってしまったことで、再びその身に危険が迫ることが暗示されています。何ともいえない結末です。

2004.09.28読了

黄金の羊毛亭 > 掲載順リスト作家別索引 > ミステリ&SF感想vol.92 > 銀のカード