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悪魔のような女/ボアロー/ナルスジャック

Cell qui n'etait plus/P.Boileau & T.Narcejac

1952年発表 北村太郎訳 ハヤカワ文庫HM31-3(早川書房)

 現在では比較的わかりやすいネタかもしれませんが、やはりよくできていると思います。中盤で登場するミレイユの兄・ジェルマンが、かなりエキセントリックな人物として描かれていることも、ある意味でミスディレクションとして機能しているようにも感じられます。

 しかし、最大のミスディレクションは、ミレイユ“殺し”の際にリュシエーヌが見せた態度でしょう。いかにラヴィネルの視点で描かれているとはいえ、不安そうな態度だったことがはっきりと書かれているので、なかなか疑いを向けにくくなっているのではないでしょうか。もちろんラヴィネルはまったく疑惑を抱いていません。しかしこれも演技だったわけではなく、リュシエーヌ自身はラヴィネルを裏切って別の計画を進行中だったのですから、不安そうな態度になるのも当然ともいえます。

 後半の幻想的な恐怖とはうってかわって、ラストの“あなた、私が迷わずに選んだと思ってるの?”というリュシエーヌの台詞には、人間というものの恐ろしさが表れています。その直前の態度にも、リュシエーヌの新たなる計画、ミレイユの病気に関わる企みが暗示されているようにも感じられます。

2001.01.30読了

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