ミステリクロノII/久住四季
2007年発表 電撃文庫 く6-8(メディアワークス)
第一章~第五章の前に挿入されている「モノローグ」において、犯人が“ショウジ”であることが読者には示されていますが、これが名前とも名字ともつかないところが巧妙です。そして“ショウジ”こと東海林嘉穂が登場した時には意表を突かれましたが、名字であれば当然他にも“ショウジ”が存在し得るわけで、このあたりのひねり具合が面白いと思います。
“失われた半年間”の出来事が次第に明らかになるにつれて、秋永貴也自身をはじめとする登場人物たちの正体や真意があらわになっていくのが本書の見どころの一つですが、やはり最も強烈なのは羽澤明里に関する反転でしょう。記憶を失った恋人を信じるけなげな姿が、秋永を怯えさせるほどのストーカーまがいの思い込みへと変貌してしまう“最後の推理”は、様々な伏線にしっかりと支えられているだけに、その苦さもひとしおです。
“メメント”による“時間欠落”というアクシデントをきっかけとして、明里が(あくまでも)“明里視点の描写”である“記憶”を秋永に与えることで、秋永の過去は単に失われただけではなく大きく“書き換え”られてしまったことになります。そう考えると空恐ろしくもなるのですが、一方でそこには人間の心の柔軟性が表れているといえるのかもしれません。
2007.12.12読了