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暗色コメディ/連城三紀彦

1979年発表 新潮文庫 れ1-1(新潮社)

 まず、森河が披露した“解決”から。
 “真犯人”である波島の目的があくまでも古谷羊子の抹殺であり、他の患者はそれをカムフラージュするために使われたという構図は、確かに面白いとは思いますが、コストパフォーマンスがよくないというか、本来の目的からするとやりすぎではないかと思えてしまいます。また、精神科医が患者の心をコントロールするという手段が、今ひとつ面白味を欠いているのは否めません。
 ただ、前副院長が自殺した事件を絡めてあることで、ワトソン役を割り当てられた在家弘子が(波島に裏切られた元妻という立場もあって)森河の“解決”を心理的に受け入れやすくなっているところが巧妙です。

 しかしその、森河によるもっともらしい“解決”が、イアリングの片方という小さな手がかりによってもろくも崩れ去ってしまっているところが何ともいえません。不条理な幻想が解体された後に現れた森河の“解決”もまた、脆弱な“砂上の楼閣”だったということになるでしょうか。

 そして最後に波島が解き明かしてみせた真相は、森河自身が真犯人だったという点などいくつかの差異はあるものの、大筋では森河の“解決”と方向性を同じくするものであって、どんでん返しといえども飛躍の度合いが不足気味で物足りなく感じられます。

* * *

 個々のネタでは、やはり碧川の遭遇したトラック消失の巧妙なトリックが目を引きます。ただ、いくら交通量が少ないとはいえ、対向車が接近してくる状況でトラックも乗用車もウインカーを点けなかったとは考えにくいのですが……。

2006.07.02再読了

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