- 「想像力の問題」 (風見 潤訳 別冊奇想天外13号「SF MYSTERY大全集」掲載)
- (以下伏せ字) トリック自体はまずまずだと思いますが、せっかくの魔術がほとんど役に立っていないのが残念です。しいて言えば、アーレン卿が首を吊った時刻に室内には他に誰もいなかったということが、マスター・ショーンの調査で明らかになっていることぐらいでしょうか。(ここまで)
- 「重力の問題」 (風見 潤編『SFミステリ傑作選』(講談社文庫117-2・入手困難)収録)
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(以下伏せ字) 比較的単純な機械トリックですが、燃えるロープが光球のように見えたために、魔術が事件にかかわっているように思わせられるところがよくできています。また、このパラレルワールドならではのラストが、革新的な未来を感じさせます。(ここまで)
- 「イプスウィッチの瓶」 (風見 潤訳 I.アシモフ他編『SF九つの犯罪』(新潮文庫 赤186-1・入手困難)収録)
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(以下伏せ字) “足跡のない死体”については、既存のトリックの流用に近く、今ひとつぱっとしません。しかし、そこに至るまでの過程、特に<イプスウィッチの瓶>が有効に使用されているところが見所です。また、心霊遮蔽フィールドのために、金属探知棒による通常の捜索では<瓶>が発見できなかったというところも面白いと思います。(ここまで)
- 「十六個の鍵」 (尾之上浩司訳;ハヤカワミステリマガジン2006年2月号掲載)
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(以下伏せ字) ヴォクスホール卿の死の真相は予想外でした。魔法で老化させられたのではなく、魔法が切れたために老化してしまったというのは、見事な逆転の発想だと思います。
ヴォクスホール卿が16本の鍵を一度ずつしか使っていない、ということまで判明してしまうのはややできすぎとも思えますが、このことがヴォクスホール卿の通った経路を明らかにするのに役立っているところはやはりよくできています。特殊な魔法を使うことで、ユニークな解決になっているといえるでしょう。ただ、別荘の図面がないために真相がわかりにくくなっているのが残念です。(ここまで)
- 「苦い結末」 (宮脇孝雄訳 SF宝石1980年2月号掲載)
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(以下伏せ字) 魔術がかけられていたために苦味を感じることができず、そのために毒殺が成立したという構図は面白いと思います。手がかりの方は、被害者がマラリアの治療薬となるアルカロイド溶液を持っていたこと、そして魔術によって五感をいじることが可能であることが提示されていますが、これだけでは“被害者はなぜ毒薬の苦味を気にせず酒を飲んでしまったのか?”という謎を解決するには不親切に思えます。ただし、アルカロイドが一般に苦味を呈するということはそれなりに知られているので、これでも十分とはいえるかもしれません。(ここまで)
- 「The Spell of War」 (未訳;『The Best of Randall Garrett』(Timescape)収録)
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(以下伏せ字) まず、ポーランド軍の攻撃に関する謎がよくできています。結果的には魔術によるものだったわけですが、このシリーズをお読みの方ならおわかりのように、黒魔術でなければ相手に直接危害を加えることができないということが一つの伏線になっていると思います。そしてその手段自体も、部隊を見えなくするというようなありきたりのものではなく、幻の部隊を出現させてそこに狙撃兵をまぎれこませるというユニークなものになっています。そしてこの、幻の部隊と狙撃兵の位置のずれが、Rimbaud大尉の死の真相にダーシー中尉が気づく手がかりとなっているところが見事です。
Kelleigh軍曹の謎の行動も、説明されてみればうなずけるもので、その心理がうまく描かれていると思います。(ここまで)
- 「ナポリ急行」 (風見 潤訳 SF宝石1981年4月号収録)
- 以下、A.クリスティ『オリエント急行の殺人』の真相に触れています。未読の方はご注意下さい。
(以下伏せ字) この作品ではA.クリスティ『オリエント急行の殺人』の、乗客全員が犯人という真相が下敷きにされています。身分を偽り、顔見知りであることを隠した怪しげな乗客たちを登場させることで、あまりにも有名な真相がミスディレクションとして使われているのです。真犯人の指摘も論理的で、よくできた作品といえるでしょう。(ここまで)
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