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死写室/霞 流一

2008年発表 (新潮社)
「届けられた棺」
 “見立て、密室、アリバイってトリックが化身していった”(37頁)という紅門福助の言葉通り、捜査の進展につれてトリックの“性格”が変化していく過程が非常に面白いと思います。と同時に、死体を入れた柳行李が届けられたという表面的な状況から、柳行李が届いた後での死体の搬入という真相へと反転し、なおかつアリバイのために表面的な状況が積極的に偽装されたことが露見するあたりも、なかなか見ごたえがあります。
 ネストルームへの出入りを示す脚立のキャップや、アリバイトリックを示唆する“白い靴下の足裏”(14頁)といった手がかりもよくできていますし、伝票をもとにしたロジックも鮮やかです。

「血を吸うマント」
 後ろ向きに歩くというトリックそのものはもはや古典の領域ですが、特徴のある靴を使用することで被害者の足跡だということを強調しつつ、発見後に靴をすり替えるというひねりがよくできています。しかも、冒頭で被害者が罵倒される原因となった――そしてそれが被害者の“自殺”の動機にもなった――吸血鬼の長すぎるマントが、靴のすり替えの際に巧妙に使われているところが実に見事です。

「霧の巨塔」
 酔っ払ってうたた寝していた挙句に事故で気を失った直後という事情があるとはいえ、垂直と水平を勘違いするというのは、かなり無理があるといわざるを得ません。むしろ、そのような状態だからこそどちらが下かには敏感なようにも思えますし……。
 しかし、あえてその勘違いを正すことなく、というよりもそれを積極的に利用して事故現場を隠そうとしたマネージャーの加茂の心境は印象的ですし、旅館のオカミが遭遇した怪異が殺人事件の背景として絡んでくるあたりはよくできていると思います。
 犯人特定の手がかりである服の色が事前に示されていないのは、らしからぬミスでしょうか。

「首切り監督」
 第一の現場から第二の現場への首の移動がまず先にあり、その真の目的を隠蔽するために首を入れ替えるという真相が実にユニークです。普通に考えればわざわざ首を運ぶ合理的な理由がないため、入れ替えの方がクローズアップされることになるわけですが、この作品では切断した首を凶器として使うという常軌を逸した発想と組み合わされることで、破壊力のあるバカトリックに仕上がっているのが見事です。

「モンタージュ」
 いわゆる“見えない人”トリックということになりますが、“見えない”理由としてもう一つの錯誤――コート掛けを鏡だと思い込んだ――が絡んでいるのがまず秀逸。しかもそれが、“コート掛け、鏡、フロアランプの三点”(145頁)という物品名だけの情報と、受け手である“亜夢センセー”の先入観による補完との組み合わせ、すなわち叙述トリックに通じるメカニズム*1によるものになっているのが非常に面白いと思います。また、“亜夢センセー”に話を聞いている最中の紅門福助が“正しい”物品を思い浮かべていることが、読者に対するミスディレクションとなっているところも見逃せません。

「スタント・バイ・ミー」
 スタントマンがテーマとなっているために、入れ替わりトリックが見えやすくなっているのは、致し方ないところでしょうか。
 九十九貴彦が二週間前に盗み出したマスクがうまく使われているところはよくできていると思います。

「死写室」
 “人間椅子”ならぬ、“人間ドア”ともいうべきバカトリックのインパクトは強烈。ドアの現物を目にすることもできる紅門福助ならまだしも、読者が見破ることは間違いなく不可能でしょう。
 しかし、被害者たちが試写室で行っていた“踏み絵”――ひいてはそのための映像のズレを解き明かすことで、“出入り口のちょっと手前で、ほんの一瞬だけど、クラッとした感じを覚えた。”(249頁)という亜由美の証言を浮き上がらせる手順はよくできていると思います。

「ライオン奉行の正月興行」
 「問題篇」の最後のあたりの展開で、坂場支配人の死体から発見されたフィルムの断片が決め手となることは十分に予想できるでしょう。まず紅門福助を除外するのはいいとして*2、深大寺副支配人と長尾技師がサブリミナルの仕掛けに関わっていることを見抜いた上で、その二人ならフィルムを回収するはずだという条件を想定するのは少々難しいかもしれませんが、不可能とはいえません。
 一方、汗をごまかすために死体を便器に突っ込むという奇天烈な発想には思わず唖然とし、さらに死体とともに着ぐるみの中に入るというトリックに至っては「死体と二人羽織かよ!」と呆れてしまったのですが、最後に獅子舞というオチが示されて脱帽。

*1: 拙文「叙述トリック概論」[図4]を参照。
*2: 懸賞付き犯人当て小説としてはどうかという気がしないでもないですが。

2008.04.04読了

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