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  4. 死の扉

死の扉/L.ブルース

At Death's Door/L.Bruce

1955年発表 小林 晋訳 創元推理文庫225-02(東京創元社)

 真相が明かされてみると、エミリー・パーヴィス殺しの巻き添えになったと思われたジャック・スラッパー巡査こそが真の標的だったという、“主副逆転の構図。今となっては既視感があるもので、(すぐには思い出せないものの)おそらく前例もあるとは思います*が、本書では二人の被害者の設定が非常に秀逸で、片や多くの人物に恨まれているエミリー、片や巡査の仕事上事件に巻き込まれてもおかしくないスラッパーと、絶妙な組み合わせによって、ミスリードが非常に強力なものになっています。

 また、「第二章」で実際に描かれているように、真の標的であるスラッパーよりも先にエミリーが殺害されている――それがはっきり示されている――のも巧妙で、これも殺人の“主副”を誤認させるのに一役買っていると同時に、エミリー殺しがスラッパーをおびき寄せる“餌”として効果的に使われているのがお見事です。

 キャロラス・ディーンによる解決では、犯人がエミリーの死体を移動させていたことに納得できる説明が示されているのもさることながら、やはり“右足を引きずる男”の謎がユニークな凶器の消失につながっているところが非常によくできています。そして、一見するとさして不自然なところのなかった「第二章」でのコニー・スラッパーの言動が、かなり後になって示される、降霊会に参加したことがなかったという事実と合わせて伏線となってくるのも巧妙です。

*: 少なくとも、“ミスディレクションのためだけの殺人”まで広げれば確実に前例がありますが、本書ほど被害者が極端な設定となっている例は思い当たりません。

2012.02.27読了