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観月の宴/R.ファン・ヒューリック

Poets and Murder/R.van Gulik

1968年発表 和爾桃子訳 ハヤカワ・ミステリ1744(早川書房)

 被害者の帽子という小さな手がかりをもとに、間借人殺しが計画殺人であることを明らかにしているところはよくできていると思います。また同様に、“妃の階段”によって舞妓殺しが外部の犯行ではあり得ないことをはっきりさせているのも見事です。

 一見関係のなさそうな二つの事件が、掘り起こされた過去の事件を介してつながっていく展開は、非常に面白いと思います。それぞれが巧妙に組み合わされているだけでなく、因縁めいたものまで付け加わっているところが印象的です。

 残念ながら、容疑者が絞り込まれたそこから先が、決め手を欠いたものになっているのですが、それも致し方ないところかもしれません。二つの密告状の文体などは決め手になり得た可能性がありますが、いくら何でも読者にとってわかりにくすぎるでしょう。

 というわけで、最後には幽蘭絡みの事件が重要な要素となってきます。読んでいる途中は全体の中でこの事件だけ浮いているのが気になっていたのですが、解決場面での扱いはよくできていると思います。密告者が幽蘭に近い存在であることは明らかなのですから。

 描き出される犯人像は、仮面をかぶった悪の権化といった感じのものですが、そのあたりはさほど印象に残りません。それほどに、幽蘭の告白が圧倒的な迫力を備えているというべきでしょう。

2003.12.12読了