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雷鳴の夜/R.ファン・ヒューリック

The Haunted Monastery/R.van Gulik

1961年発表 和爾桃子訳 ハヤカワ・ミステリ1729(早川書房)

 この作品では、舞台が朝雲観に限られているため、すべての事件の背後に観主の企みが隠れていることが容易に想像できます(もちろん、冒頭のやり取りもそれに拍車をかけているわけですが)。観主の後ろにさらに黒幕がいるところは面白いと思いますが、その正体は見え見えでしょう。少なくとも、観主が死んだ場面での孫道士は怪しすぎです。

 公的に裁くことが困難な孫道士に対して、狄判事は苦悩の果てに独自の裁きを与えます。孫道士が法を犯していることは明白ですから、狄判事の行為は単なる殺人ではなく、あくまでも法による裁きの一環と考えるべきではないでしょうか。とはいえ、理想と現実の板挟みとなった狄判事の心中は、察するに余りあります。非常に印象深い結末といえるでしょう。

 前観主の死については、猫の絵という実に意外な手がかりが見事です。あらためてじっくりと絵を見てみると、猫の目は不自然なほど(笑)丸く描かれており、納得せざるを得ないところです。

2003.05.04読了

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