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迷宮の暗殺者/D.アンブローズ

The Discrete Charm of Charlie Monk/D.Ambrose

2000年発表 鎌田三平訳 ヴィレッジブックスF-ア2-1(ソニー・マガジンズ)

 スーザンの研究内容を考えると、チャーリーの持っている“キャシー”の記憶が偽物であることは予想できるところですし、第二部の終盤に登場する“キャシー”がスーザンであることも、ある程度見当をつけることは可能でしょう。しかし第二部のラスト、チャーリーがチンパンジーになってしまうというすさまじい展開には、ただただ唖然とするより他ありません。ヴァーチャル・リアリティは、ともすれば“何でもあり”になってしまうために物語に対する興味を削ぎかねない両刃の剣ではありますが、それでもここまでぶっ飛んだ“現実”を作り出してくれれば文句なしです。

 隠された真相が少しずつ明かされる第三部には、最後に“コントロール”=エイメリー・ハイドというもう一つの“爆弾”が用意されていますが、“チンパンジー”の陰に隠れてさほどインパクトが感じられないのがもったいないところです。組織の非情さを強調する上では定番ともいえるものの、それまでのスーザンの必死の戦いを無にしてしまう、なかなか強烈な真相だと思うのですが……。

 現実と仮想現実との区別がつかなくなるという結末は、例えば岡嶋二人が1980年代にすでに某作品((以下伏せ字)『クラインの壺』(ここまで))で描き出していることもあり、あまり面白味が感じられないのが残念。もっとも、ここまでヴァーチャル・リアリティを中心に据えてしまうと、ここしか落としどころはないのかもしれません。

2006.09.30読了

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