ネタバレ感想 : 未読の方はお戻り下さい
黄金の羊毛亭 > 掲載順リスト作家別索引 > ミステリ&SF感想vol.88 > 大聖堂は大騒ぎ

大聖堂は大騒ぎ/E.クリスピン

Holy Disorders/E.Crispin

1945年発表 滝口達也訳 世界探偵小説全集39(国書刊行会)

 作者は犯人を隠すために、ジェフリイのロマンスまでもミスディレクションとして(おそらく)使っているのですが、四つ葉のクローバーで見当がついてしまいました。最後のオチ(決め手?)として言及されているとはいえ、フェン教授は別のロジックで犯人に到達していますし、不要だったのではないか、と思ってしまうのですが……。

 パイプオルガンを使ったトリックはまさに驚天動地。伏線にやや難はありますが、決して実現不可能ではないでしょう。しかし、墓碑の崩落がアリバイ工作(バトラーはもっと前に死んでいる)であろうことは予想できたのですが、結局は崩落させるために大聖堂(のオルガン・ロフト)にいなければならないのですから、その効果には今ひとつ疑問が残ります。もちろんオルガン・ロフトは、崩落が起きた大聖堂内部とは隔離されているのですが、いずれにせよ、万一(ピース氏のように)現場付近で目撃されてしまっては元も子もありません。作中では不測の事態によるとっさの計画と説明されていますが、もう一工夫ほしかったところです。

 犯人指摘のロジックの中核となる、“誰かが墓碑の落下音を聴かなくてはならないのだ”(292頁)という台詞には圧倒されました。私が先の“四つ葉のクローバー”に気を取られていたからかもしれませんが、音が聞こえなかったというダットンの証言がこのような形で意味を持ってくるとは思いませんでしたし、例の“誰もいない森の中で木が倒れた時……”という有名なパラドックスを連想させるのも面白いと思います。

2004.07.30読了

黄金の羊毛亭 > 掲載順リスト作家別索引 > ミステリ&SF感想vol.88 > 大聖堂は大騒ぎ