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納骨堂の多すぎた死体/E.ピーターズ

A Nice Derangement of Epitaphs/E.Peters

1965年発表 武藤崇恵訳(原書房)

 納骨堂の中の状況は、なかなか面白いと思います。まず、トレヴェッラ家の当主であるジャンが弄したトリックが、遺体の不在という謎を作り出している上に、妻のモーウェンナの場合にはアクシデントが生じたために、相乗効果によって一層不可解な状況となっています。また、そのアクシデントによって、逃亡資金となるはずだった財宝が手つかずのまま棺の中に残され、それが現代の死体を生み出すきっかけになっているのがうまいところです。さらに、その死体の存在のためにトリシュアンはサイモンを脅迫せざるを得なかったのですから、結局はすべてが一連の流れになっているのです。実に見事というべきでしょう。

 本書の終盤には、パディ少年を主役としたクライマックス、つまり実の親であるサイモンではなく育ての親であるロサル夫妻を選ぶというイベントを経て、パディ少年が去って行った後に、サイモンが犯人であることが明かされています。サイモンの動機がパディ少年の出生の秘密に端を発しているのは確かなのですが、ここは両者をもう少し直接絡めた方がよかったのではないでしょうか。ラストに登場するサイモンとタムジンのロマンスもかなり唐突に感じられますし、あくまでもパディ少年を物語の中心に据えておくべきだったのではないかと思います。

2003.12.22読了

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