屍衣の流行/M.アリンガム
The Fashion in Shrouds/M.Allingham
1938年発表 小林 晋訳 世界探偵小説全集40(国書刊行会)
終盤、キャンピオンはファーディーに動機が不明だと語っていますが(367頁)、目の前の真犯人を煙に巻いているのかと思いきや、事件解決後のオウツ警視との会話(386頁)をみるとそうでもなかったようです。しかし、人気女優であるジョージアの身辺から、ポートランド-スミスとラミリーズという扱いにくい男性を排除する動機としては、いわゆる“金の卵を産む鶏”を守るためというのが最初に思い浮かびそうなものですし、「第八章」で描かれた危機的状況の収拾にもそれがよく表れていると思います。特に、すでに真犯人を見抜いていたキャンピオンにとっては、その立場を考えれば明らかではないかと思うのですが……。
人間の“強みと弱み”を巧みに利用する犯人の手法は、いわゆる“操り”テーマそのもので、時代を考えれば先進的な作品といえるのかもしれません。小林晋氏の解説「アリンガム問答(羊頭狗肉篇)」では、真犯人を含めた真相を示唆するいくつかの伏線が挙げられていますが、最後まで読み終えてみると、ガイオギがファーディーを評した“誰か代わりにやってくれる人間さえいたら、彼は何一つしやしないよ”
(128頁)という台詞こそがもっとも強く“操り”を示唆しているように感じられます。