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魔王の足跡/N.ベロウThe Footprints of Satan/N.Berrow |
1950年発表 武藤崇恵訳 世界探偵小説全集43(国書刊行会) |
蹄の跡が二種類ある中で、その一方だけしか残されていない場所がある――という時点で、超常現象ではなくトリックであることは明白ですし、しかもそのおおよその手段――蹄をスタンプ代わりにした――まで見え見えです。にもかかわらず、いつまでもオカルトで引っ張ろうとしているのはいただけません。 そして“蹄”という装飾を取り払ってしまえば、後に残るのは“足跡のない殺人”のバリエーションにすぎなくなってしまうわけで、蹄の跡の始端と終端とを誤認させるトリックを見抜くのはさほど困難ではないと思います(後ろ向きに歩くトリックには前例があります)し、それが犯人に直結してしまうという難点もあります。 しかし、蹄を逆向きに取り付けておくというアイデアはシンプルながら効果的ですし、蹄であるために実際の進行方向が(普通の靴底よりも)わかりにくくなっているところがあるのではないかと思われます。また、メイスンの死体のそばで靴を履き替える(それまで履いていた靴をメイスンに履かせる)のもうまいですし、建物を通り抜けたりといった超常現象を演出しているあたりの芸の細かさも見逃せません。さらにこの超常現象の演出に関しては、三段跳びの選手という伏線が秀逸です。 犯人が細工を弄しすぎている感がなきにしもあらずですが、これについてはやはりミス・フォーブズの存在が大きかったのではないかと思います。つまり、オカルト色の強い装飾を施せば間違いなくミス・フォーブズが事件に介入し、捜査を混乱させてくれることが事前に期待できたわけで、ある程度確実な効果が期待できる状況だったといえるのではないでしょうか。
なお、最後のミス・フォーブズの台詞はいかがなものかと思います。もてあそばれた後に捨てられて自殺した妻の復讐という動機は、心情的には十分理解できるところで、少なくとも |
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