ミステリ&SF感想vol.133 |
2006.10.15 |
『魔王の足跡』 『メイン・ディッシュ』 『誰のための綾織』 『シャーロック・ホームズのSF大冒険(上)』・『同(下)』 〈ホームズSFパロディ短編(その他)〉 |
魔王の足跡 The Footprints of Satan ノーマン・ベロウ | |
1950年発表 (武藤崇恵訳 国書刊行会 世界探偵小説全集43) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] オカルト絡みの不可能状況を扱った作品で、発端となる不可解な足跡の謎は非常に魅力的です。少々やりすぎの感もないではないのですが、不可能性が高いと同時にイメージも美しく、さらに首を吊った男の死体が組み合わされることで、読者を引き込むに足る十分なインパクトが備わっていると思います。ただし、そこから先は問題ありといわざるを得ません。
少なくとも本格ミステリとして紹介されている以上、それが超常現象などではなく何らかのトリックによるものだということは、読者にとっては当然想定できるところです。それでも、作中の登場人物たちが超常現象でしかあり得ないと思い込んでいる限り、オカルト的な雰囲気を強調することで物語を盛り上げることは可能でしょう。すなわち、(本格)ミステリにおけるオカルトの味付けが効果的なものになるか否かは、登場人物がそれをどの程度信じるかにかかってくるといえます。 ところが本書では、蹄の跡がトリックの産物であることを露骨に示唆する手がかりが、比較的早い段階で見つかっています。つまり、超常現象ではないと判断すべき根拠がある中で、怪奇現象研究家として登場するミス・フォーブズを中心とした一般の人々はまだしも、捜査陣までもがいつまでたっても超常現象という見方を捨てようとしないため、白々しい空騒ぎを見せられているような気分になってきます。 トリックの細部や思わぬ伏線など、うまく工夫されているところもありますが、トリックの大筋、ひいては真相の一部が見えやすくなっているのも難点。冒頭の魅力的な謎に比して解決が力不足なのは否めませんし、それもあって読み終えてみると冗長すぎるように感じられるのも事実です。さらに、結末のこじつけめいたやり取りも、いたずらに印象を悪くしているようにしか受け取れません。要するに、身も蓋もない表現をしてしまえば典型的な竜頭蛇尾なのですが、やりようによってはもう少しいいものにできたと思われるのが何とももったいないところです。 2006.09.08読了 [ノーマン・ベロウ] |
メイン・ディッシュ 北森 鴻 | |
1999年発表 (集英社文庫 き12-1) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
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誰のための綾織 飛鳥部勝則 | |
2005年発表 (原書房 ミステリー・リーグ・入手困難) | ネタバレ感想 |
[注意] [紹介] [感想] 作者自身による絵画を付した異色のミステリ『殉教カテリナ車輪』でデビューした飛鳥部勝則の長編第10作。本書にも巻頭に絵画が置かれていますが、これは数作ぶりのようです。
“推理小説に禁じ手などあるのだろうか。/おそらく、ありはしない。/面白ければそれでいい”という刺激的な書き出しで始まる「プロローグ」では、“禁じ手”か否かの境界性付近に位置する例を挙げながら、興味深いミステリ談義が展開されており、特に有名な某作品に言及されているあたりはニヤリとさせられます。個人的には、“禁じ手”という概念自体が“面白さ”という評価軸と不可分であるようにも思えるのですが、それはさておき。「プロローグ」の最後には、飛鳥部の教え子・鹿取モネによる実話を基にした(という設定の)原稿『蛭女』が話題に上ります。話の流れからみて、“禁じ手”に対する一つの回答として提示されているようでもあるのですが……。 本書のほとんどの部分を占めるその作中作『蛭女』は、復讐者によって孤島に集められた登場人物たちが惨劇に襲われるという、骨格だけみればかなりベタなプロットではあります。しかし、それはおそらく意図的なものであって、作品の瑕疵というべきではないでしょう。『蛭女』の見どころは、全体に漂う背徳的な雰囲気や、妖怪“蛭女”を中心とした怪奇幻想といった、骨格以外の部分であることが明らかでしょう。とはいえ、新潟県中越地震という現実の事件が取り込まれているあたりは、幻想と現実が奇妙な形で同居しているような印象を受けます。 さらに『蛭女』の中で起きる、日本間の密室という微妙な現場の殺人事件に対しては、シリアスな推理合戦の果てに強烈なバカトリックが提示されていますし、その後はサスペンスが高まったかと思えば突如としてギャグのような展開が待ち構えるなど、何ともつかみどころのない様相です。この、独特のくせのある物語はなかなかの魅力です。 さて、問題の“禁じ手”についてはどうか。結論からいえば決して“禁じ手”というわけではないと思うのですが、それでもかなりとんでもない仕掛けであることは間違いないでしょう。個々のトリックには前例がないこともないのですが、それらを組み合わせて描き出される作者の企みは実にユニークなものです。 現在入手困難になっている本書ですが、そのあたりの事情はさておき、ミステリとしては一読の価値のある作品ではないかと思います。 2006.09.10読了 [飛鳥部勝則] |
シャーロック・ホームズのSF大冒険(上) Sherlock Holmes in Orbit マイク・レズニック&マーティン・H・グリーンバーグ 編 | |
1995年発表 (日暮雅通監訳 河出文庫レ3-1) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想] この上巻には、[過去のホームズ]11篇が収録されていますが、特に気に入ったのは「ロシアの墓標」、「行方不明の棺」、「リッチモンドの謎」あたり。 [第I部 過去のホームズ]
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シャーロック・ホームズのSF大冒険(下) Sherlock Holmes in Orbit マイク・レズニック&マーティン・H・グリーンバーグ 編 | |
1995年発表 (日暮雅通監訳 河出文庫レ3-2) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
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ホームズSFパロディ短編(その他) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想] これらの作品は個別に読まれる場合が多いと思いますので、ネタバレ感想は伏せ字にしておきます。作品ごとに範囲指定してお読み下さい。
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