ミステリ&SF感想vol.133

2006.10.15
『魔王の足跡』 『メイン・ディッシュ』 『誰のための綾織』 『シャーロック・ホームズのSF大冒険(上)』『同(下)』 〈ホームズSFパロディ短編(その他)〉



魔王の足跡 The Footprints of Satan  ノーマン・ベロウ
 1950年発表 (武藤崇恵訳 国書刊行会 世界探偵小説全集43)ネタバレ感想

[紹介]
 ある雪の朝、英国の田舎町ウィンチャムに悪魔の足跡が出現し、町の人々を恐怖に陥れる。雪に覆われた道の中央に突如現れた蹄の跡は、建物をすり抜けながら町中のあちこちをさまよい歩き、丘を登って野原の真ん中へと向かい、はるか昔に青い服の魔女が縛り首になったと伝えられるオークの木の傍らまで来たところで、まるで蹄の持ち主が虚空に消え失せてしまったかのようにぷっつりと途切れていたのだ。そしてそのオークの木の大枝からは、首を吊った男の死体がぶら下がっていた……。

[感想]

 オカルト絡みの不可能状況を扱った作品で、発端となる不可解な足跡の謎は非常に魅力的です。少々やりすぎの感もないではないのですが、不可能性が高いと同時にイメージも美しく、さらに首を吊った男の死体が組み合わされることで、読者を引き込むに足る十分なインパクトが備わっていると思います。ただし、そこから先は問題ありといわざるを得ません。

 少なくとも本格ミステリとして紹介されている以上、それが超常現象などではなく何らかのトリックによるものだということは、読者にとっては当然想定できるところです。それでも、作中の登場人物たちが超常現象でしかあり得ないと思い込んでいる限り、オカルト的な雰囲気を強調することで物語を盛り上げることは可能でしょう。すなわち、(本格)ミステリにおけるオカルトの味付けが効果的なものになるか否かは、登場人物がそれをどの程度信じるかにかかってくるといえます。

 ところが本書では、蹄の跡がトリックの産物であることを露骨に示唆する手がかりが、比較的早い段階で見つかっています。つまり、超常現象ではないと判断すべき根拠がある中で、怪奇現象研究家として登場するミス・フォーブズを中心とした一般の人々はまだしも、捜査陣までもがいつまでたっても超常現象という見方を捨てようとしないため、白々しい空騒ぎを見せられているような気分になってきます。

 トリックの細部や思わぬ伏線など、うまく工夫されているところもありますが、トリックの大筋、ひいては真相の一部が見えやすくなっているのも難点。冒頭の魅力的な謎に比して解決が力不足なのは否めませんし、それもあって読み終えてみると冗長すぎるように感じられるのも事実です。さらに、結末のこじつけめいたやり取りも、いたずらに印象を悪くしているようにしか受け取れません。要するに、身も蓋もない表現をしてしまえば典型的な竜頭蛇尾なのですが、やりようによってはもう少しいいものにできたと思われるのが何とももったいないところです。

2006.09.08読了  [ノーマン・ベロウ]



メイン・ディッシュ  北森 鴻
 1999年発表 (集英社文庫 き12-1)ネタバレ感想

[紹介と感想]
 劇団〈紅神楽〉を主宰する女優・紅林ユリエ(ねこさん)は、卓越した料理の腕前と鋭い推理の才、そして誰にも語らない過去を抱えた奇妙な同居人・三津池修(ミケさん)と暮らしていた。ミステリマニアの脚本家・小杉隆一ら劇団〈紅神楽〉の面々と交流しながら、ミケさんは様々な謎を解いていくが……。
 プロローグに当たる「アペリティフ」とエピローグに当たる「メイン ディッシュ」との間に短編8篇を挟み込んだ形で、作者お得意の〈連鎖式〉ミステリとなっています。
 なお、文庫化に際して後日談の「特別料理」がボーナス・トラックとして追加されています。

「ストレンジ テイスト」
 公演を間近に控える中、ミステリ劇を書き下ろすはずだった脚本家の小杉の筆が止まってしまった。舞台も事件も犯人も決まっていながら、登場人物の行動に違和感を覚えたというのだ。劇団の面々がねこさんのマンションに集まり、善後策を講じる中、ミケさんが思わぬ光明を……。
 未完成の作中作を完成に導くという趣向で、意外なところに配された手がかりや、妄想すれすれの展開をみせる推理が楽しいエピソードです。物語の雰囲気は、I.アシモフ〈黒後家蜘蛛の会〉にかなり近いものが感じられます。

「アリバイ レシピ」
 社内の定期健康診断で癌を宣告され、余命幾ばくもない今、思い出されるのはかけがえのない仲間たちと過ごした学生時代。だが、その楽しかった日々に終止符を打ったのは、仲間の一人の飛び降り自殺だった。そう、今こそあの事件にきちんと片を付けなければ……。
 「ストレンジ テイスト」とは打って変わって、劇団〈紅神楽〉とはまったく関係なさそうにみえるエピソード。“アリバイ レシピ”はわかる人にはわかりそうなものではありますが、その扱い方はまずまず。そして最後に明かされる真相の苦さが何ともいえません。

「キッチン マジック」
 今夜もねこさんのマンションに集まった面々を前に、中華麺を打とうとしたミケさんだったが、なぜか小麦粉の配分を間違えてしまう。その同じ夜、マンション前の路上で高校生が殺害される事件が起こり、バイクに乗って犯行を繰り返していた引ったくり犯の仕業だと目されたのだが……。
 「ストレンジ テイスト」では自身に関する問題だったために不発でしたが、このエピソードから徐々に“推理の暴走王”小杉がその本領を発揮し始めます。盲点を突いた事件の真相に加えて、何とも複雑な思いを伝えるエピソードまで用意された佳作。

「バッド テイスト トレイン」
 列車での旅の途中、駅弁を買ってみたものの、食欲を失って放っておいたところ、相席になった男が話しかけてきた。男はしばらく駅弁に関する深い造詣を披露していたが、やがてそのうちに、同じ車両に乗り合わせた他の乗客の弁当におかしなところがあると言い出して……。
 「アリバイ レシピ」の系列に属するエピソード。駅弁に端を発する“日常の謎”も面白いと思いますが、何といっても読者を困惑に陥れる結末が秀逸です。

「マイ オールド ビターズ」
 劇団〈紅神楽〉の公演を目にして気に入ったという大金持ちの老人が、信州にある屋敷で自分だけのために芝居を演じてほしいと持ちかけてくる。破格のギャラもあって一同は仕事を引き受けるが、舞台が終わった後の打ち上げの最中に、小杉が恐るべき疑惑を抱き始め……。
 某ホームズ譚に通じるような、どこかおかしなところをのぞかせる“うまい話”。そのせいか小杉の暴走推理もそちら方向へと向かい、ややドタバタ気味の展開となりますが、それを落ち着かせるミケさんの推理は鮮やか。
 しかし、色々な意味で苦さを伴う結末となっているのは、ネタがビールゆえか。

「バレンタイン チャーハン」
 雑誌の料理エッセイの企画に登場することになったねこさんは、ミケさん直伝のチャーハンを披露する。やがてできあがった雑誌に掲載された写真を目にした小杉はしかし、なぜか不思議そうな表情を見せる。一方、雑誌の担当編集者のもとに怪しい手紙が届くようになり……。
 「マイ オールド ビターズ」の結末を受けて、ねこさんを取り巻く状況は激変します。が、小杉の暴走推理だけは相変わらずで、安心させられます。微笑ましく感じられる真相もまた、物語全体の雰囲気に合っていると思います。

「ボトル “ダミー”」
 キッチンの収納スペースの奥から、ミケさんが一年前に漬けた梅酒のボトルが見つかった。〈紅神楽〉の面々が集まってその熟成された梅酒を味わっている最中、ねこさんと小杉が思い出したのは、同じくちょうど一年前にライバルの劇団で起きた、脚本家の自殺事件だった……。
 事件の真相を解く鍵はミケさんの梅酒。それが事件の直接の手がかりというわけではなく、密かに真相を見抜いたミケさんがそれを梅酒に象徴させた、というのが面白いところです。
 そして、ついにミケさんの過去の一端が明らかになるのですが、それを受けた結末では小杉のとんでもない“暴走”が暴露され、思わず度肝を抜かれます。〈連鎖式〉ミステリとしても例を見ない、実にユニークな手法といえるでしょう。

「サプライジング エッグ」
 ミケさんが過去に知っていたらしい、ねこさんの昔の同棲相手。彼から過去の事件の詳細を聞きだしたねこさんと小杉は、懸命にその真相を解き明かそうとする。そしてミケさんは……?
 最後に明らかになる真相は、やや無茶なところもありますが、まずまず。そして物語は見事な大団円へ。

「特別料理」 (文庫版のみ収録)
 またしても執筆に行き詰まった挙げ句、解決編を考えないまま問題編だけを発表してしまうという掟破りをやらかしてしまった小杉が、ミケさんに泣きついてくる。一見すると無茶苦茶な内容の問題編から、ミケさんが導き出した解決とは……?
 「ストレンジ テイスト」と同様、自作に関しては推理以外の部分が暴走してしまう小杉。そして、鋭い着眼点から出発するミケさんの推理はまたしても鮮やかです。それにしても、最後のオチは……当初からここまで構想済みだったのでしょうね。

2006.09.10再読了  [北森 鴻]



誰のための綾織  飛鳥部勝則
 2005年発表 (原書房 ミステリー・リーグ・入手困難ネタバレ感想

[注意]
 本書は、三原淳の漫画『はみだしっ子』シリーズとの類似表現が確認されたとの理由で、版元の原書房により絶版となっています(「飛鳥部勝則 「誰のための綾織」(原書房)絶版に関しまして」)。類似表現の内容等については、堀川成美さん(「堀川成美の世界」)による「『はみだしっ子』からの引用部分比較」をご参照下さい。
 なお、この問題に関する個人的な意見の表明は差し控えます。

[紹介]
 作家・飛鳥部と編集者・稲毛は、推理小説の禁じ手について議論を続けていた。やがて、飛鳥部の教え子である女子高生が書いた原稿が話題に上る。それは、書き手である鹿取モネと友人たち、そして女教師が拉致され、本土から離れた孤島に監禁された事件の顛末を描いた、『蛭女』という題名の作品だった……。
 睡眠薬で眠らされ、孤島の屋敷で目覚めたモネたちの前に、屋敷の主が姿を現す。それは、モネたちが“蛭女”と呼んでいじめを繰り返し、ついには自殺に追いやった同級生・三識瞳の家族だったのだ。モネたちが厳しい追及を受けたその夜、殺人事件が……。

[感想]

 作者自身による絵画を付した異色のミステリ『殉教カテリナ車輪』でデビューした飛鳥部勝則の長編第10作。本書にも巻頭に絵画が置かれていますが、これは数作ぶりのようです。

 “推理小説に禁じ手などあるのだろうか。/おそらく、ありはしない。/面白ければそれでいい”という刺激的な書き出しで始まる「プロローグ」では、“禁じ手”か否かの境界性付近に位置する例を挙げながら、興味深いミステリ談義が展開されており、特に有名な某作品に言及されているあたりはニヤリとさせられます。個人的には、“禁じ手”という概念自体が“面白さ”という評価軸と不可分であるようにも思えるのですが、それはさておき。「プロローグ」の最後には、飛鳥部の教え子・鹿取モネによる実話を基にした(という設定の)原稿『蛭女』が話題に上ります。話の流れからみて、“禁じ手”に対する一つの回答として提示されているようでもあるのですが……。

 本書のほとんどの部分を占めるその作中作『蛭女』は、復讐者によって孤島に集められた登場人物たちが惨劇に襲われるという、骨格だけみればかなりベタなプロットではあります。しかし、それはおそらく意図的なものであって、作品の瑕疵というべきではないでしょう。『蛭女』の見どころは、全体に漂う背徳的な雰囲気や、妖怪“蛭女”を中心とした怪奇幻想といった、骨格以外の部分であることが明らかでしょう。とはいえ、新潟県中越地震という現実の事件が取り込まれているあたりは、幻想と現実が奇妙な形で同居しているような印象を受けます。

 さらに『蛭女』の中で起きる、日本間の密室という微妙な現場の殺人事件に対しては、シリアスな推理合戦の果てに強烈なバカトリックが提示されていますし、その後はサスペンスが高まったかと思えば突如としてギャグのような展開が待ち構えるなど、何ともつかみどころのない様相です。この、独特のくせのある物語はなかなかの魅力です。

 さて、問題の“禁じ手”についてはどうか。結論からいえば決して“禁じ手”というわけではないと思うのですが、それでもかなりとんでもない仕掛けであることは間違いないでしょう。個々のトリックには前例がないこともないのですが、それらを組み合わせて描き出される作者の企みは実にユニークなものです。

 現在入手困難になっている本書ですが、そのあたりの事情はさておき、ミステリとしては一読の価値のある作品ではないかと思います。

2006.09.10読了  [飛鳥部勝則]



シャーロック・ホームズのSF大冒険(上) Sherlock Holmes in Orbit  マイク・レズニック&マーティン・H・グリーンバーグ 編
 1995年発表 (日暮雅通監訳 河出文庫レ3-1)ネタバレ感想

[紹介と感想]
 数あるシャーロック・ホームズ・パロディ(パスティーシュ)の中でも一際異彩を放つ(であろう)、SF/ファンタジーの要素を取り入れた作品ばかりを収録した書き下ろしアンソロジーです。26篇にも及ぶその作品は、ホームズの登場する時代や状況に応じて[過去のホームズ]・[現在のホームズ]・[未来のホームズ]・[死後のホームズ]という四つに分けられています。
 四つのパートに分けた割には[過去のホームズ]に偏っていたり、あるいは一部の作品でネタがかぶり気味であったりと、書き下ろしアンソロジーならではともいえる難点もないではないですが、思いの外バラエティに富んだユニークな作品集になっていると思います(熱烈なシャーロッキアンにとっては、どうかと思われる部分もあるかもしれませんが)。
 なお、上巻に付されたM.レズニックによる序文や下巻に付された「監訳者あとがき」では、それぞれの作品の趣向がある程度明かされているので、本編より先に読まない方がいいのではないかと思います。

 この上巻には、[過去のホームズ]11篇が収録されていますが、特に気に入ったのは「ロシアの墓標」「行方不明の棺」「リッチモンドの謎」あたり。

[第I部 過去のホームズ]
「マスグレーヴの手記」 The Musgrave Version (ジョージ・アレック・エフィンジャー)
 レジナルド・マスグレーヴの回想録には、ともにケンブリッジで学んでいた頃の若きホームズの思い出が記されていた――ある日、チン・チュワンフーという中国人学生から手紙を受け取ったホームズは、マスグレーヴとともにその下宿を訪ねた。二人の前に現れたチンは、自ら“ドクター・フー・マンチュー”と名乗り……。
 『重力が衰えるとき』などで知られるG.A.エフィンジャーによるこの作品は、大冒険のプロローグ的な内容にとどまっており、個人的に「マスグレーヴ家の儀式」の内容をすっかり忘れていることもあってか今ひとつ面白味に欠けています。ただ、記述者であるマスグレーヴが、ワトスン描くところのホームズ像に対して皮肉な視線を向けているあたりにはニヤリとさせられます。

「探偵の微笑み事件」 The Case of the Detective Smile (マーク・ボーン)
 三年に及ぶ謎の国外生活から戻ってきたホームズだったが、その間の冒険のすべてをワトスンに語ったわけではないらしい。そしてある日、退屈しきった様子のホームズのもとを一人の婦人が訪れる。名前を名乗らないその婦人がハドスン婦人に託したのは、ただ一枚のカード――ハートのクイーンだった……。
 不在だったホームズの語られざる冒険の一端が明かされる作品。といっても、事件の詳しい内容が語られるわけではありませんが……。ホームズと“アレ”を結びつけただけといえばそれまでですが、大いに想像力を刺激してくれる佳作です。

「ロシアの墓標」 The Adventure of the Russian Grave (ウィリアム・バートン&マイケル・カポビアンコ)
 ある朝分厚い手紙を受け取ったワトスンは、それをすでに引退したホームズのもとに届ける。どうやら、亡くなったモリアーティ教授が残していったに関する手がかりが見つかったらしい。やがて、手に入った暗号を解き明かしたホームズは、ワトスンとともに、それが指し示すロシアの奥地へと向かったのだが……。
 “原典”の中の“アレ”と、SF方面ではしばしば扱われる“アレ”とを巧みに組み合わせた快作。状況設定も秀逸ですし、終盤までネタがうまく隠されているところも見逃せません。

「“畑のステンシル模様{フィールド・セオレム}”事件」 The Adventure of the Field Theorems (ヴォンダ・N・マッキンタイア)
 アーサー・コナン・ドイルが所有する小麦畑の中に、たびたび不思議な模様が出現する。小麦をなぎ倒して描かれた、奇妙に幾何学的なその模様を、ドイルは霊界からのメッセージだと思い込んでホームズに捜査を依頼するのだが、ドイルのオカルト趣味を苦々しく思うホームズは……。
 V.N.マッキンタイア――代表作は『夢の蛇』(ハヤカワ文庫SF;未読)でしょうか――によるやや長めの1篇で、アーサー・コナン・ドイルがミステリー・サークルに遭遇するという怪作です。オカルトにはまったドイルが完全に道化として描かれているのが少々かわいそうですが……。真相はまあともかく、手がかりは面白いと思いますし、最後のオチが何ともいえない味わいをかもし出しています。

「行方不明の棺」 The Adventure of the Missing Coffin (ローラ・レズニック)
 退屈に悩むホームズを、真夜中に訪ねてきた依頼人。ホームズが推理によって解き明かしたその正体は、イタリア人の吸血鬼だった。その吸血鬼・パスカリーニ氏は、大事な棺桶を盗み出されてしまい、夜明けまでに取り戻さなければならないのだ。ホームズは直ちに真相を見抜くが……。
 編者の一人であるM.レズニックの娘L.レズニックによる作品で、吸血鬼が相手でもいつも通り平然と推理をこなすホームズの姿と、馬鹿馬鹿しくも重大な(?)事件の背景が笑えます。最後のオチも鮮やか。

「第二のスカーフ」 The Adventure of the Second Scarf (マーク・アーロンスン)
 訪れた依頼人はごく普通の紳士の姿をしていたが、ホームズの鋭い目は、相手が地球外の存在であることを直ちに見抜いた。依頼人のドリンバ氏は、宇宙船内で起きた殺人事件の解決をホームズに依頼しに来たのだ。かくしてホームズとワトスンは、遙か地球を離れた現場へと赴いたのだが……。
 比較的ストレートな(?)SFミステリ。手がかりがかなり露骨で、真相は見え見えだと思いますが、事件を解決へと導くホームズの活躍ぶりはなかなかのものです。

「バーバリー・コーストの幽霊」 The Phantom of the Barbary Coast (フランク・M・ロビンスン)
 マイクロフト・ホームズが依頼してきたのは、アイリーン・アドラーの・レオナの失踪事件の捜査だった。アメリカへ渡った彼女は、サンフランシスコで消息を絶っていた。依頼を受けて頽廃の街・サンフランシスコへやって来たホームズとワトスンは、そこで船員たちを脅かす奇怪な幽霊話に出くわして……。
 やや長めのゴースト・ストーリー。事件の真相はある意味アメリカ的というか何というか、さほど面白味は感じられませんが、結末は印象深いものがあります。

「ネズミと名探偵」 Mouse and the Master (ブライアン・M・トムセン)
 ワトスンは回想していた。尊敬すべき名探偵ホームズが、ただ一度だけ評判のよくないアメリカ人を雇った時のことを――“ネズミ”とあだ名されるけちな探偵マルコム・チャンドラーは、名探偵ホームズに雇われてとある降霊会に潜入する。そこに参加するワトスンの様子を見張るためだったのだが……。
 ハードボイルド風探偵を主役とした怪作。作中で描かれているホームズとワトスンの“真の姿”が笑えます(←いいのか?)が、決してそれだけの作品ではないと思います。

「運命の分かれ道」 Two Roads, No Choices (ディーン・ウェズレイ・スミス)
 それは、実に奇怪な依頼だった。未来から来た科学者だという二人の依頼人は、客船タイタニック号が沈まなかった理由を調べてほしいというのだ。“正しい歴史”では、タイタニック号は氷山に衝突して沈没したらしい。依頼人たちによって、歴史の分岐点へと送り込まれたホームズは……。
 タイムトラベルによる歴史の改変を阻止するという、いわゆる“タイム・パトロールもの”。ややひねり(というほどでもありませんが)の加えられた結末が印象に残ります。余談ですが、この種の作品の(多分)元祖であるP.アンダースン『タイム・パトロール』にもホームズが登場しています。

「リッチモンドの謎」 The Richmond Enigma (ジョン・デチャンシー)
 ホームズを訪ねてきた事務弁護士は、彼が遺産管理人をしているというリッチモンド在住の発明家の消息を探ってほしいという。その発明家は、とある奇怪な装置を作り出した挙げ句、それを使って姿を消してしまったらしいのだ。詳しい話を聞き出したホームズは、一通の手紙を書いて……。
 元ネタが何かはすぐにわかるかと思いますが、その扱い方が秀逸。印象的な“結末”を暗示する「あとがき」が非常によくできています。

「サセックスの研究」 A Study in Sussex (リーア・A・ゼルデス)
 30年前に引退して養蜂に精を出していたホームズからの電報で、ワトスンはサセックスまで呼び出されるが、久しぶりに再会したホームズは、高齢にもかかわらず若々しい姿を保っていた。疑問を覚えたワトスンに対してホームズは、長年の間蜂の生態を研究し続けてきた成果だというのだが……。
 単純な(?)オチ一発といった感じの作品。しかし、ややリドルストーリー風味の結末が興味を引きます。

2006.09.14読了  [マイク・レズニック&マーティン・H・グリーンバーグ 編]
シャーロック・ホームズのSF大冒険(下) Sherlock Holmes in Orbit  マイク・レズニック&マーティン・H・グリーンバーグ 編
 1995年発表 (日暮雅通監訳 河出文庫レ3-2)ネタバレ感想

[紹介と感想]
 本書には、上巻に引き続いての[過去のホームズ]3篇と、[現在のホームズ]4篇、[未来のホームズ]6篇、そして[死後のホームズ]2篇が収録されています。
 「数の勝利」「自分を造った男」「シュルロック族の遺物」「未来からの考察――ホームズ最後の事件」「“天国の門”の冒険」あたりがお気に入りです。

[第I部 過去のホームズ〈続き〉]
「数の勝利」 The Holmes Team Advantage (ゲイリー・アラン・ルース)
 ファージントン卿の大切な犬を盗み出した男たちは、なぜか二時間後にこっそり犬を返しにきた。そして同じように、盗まれた品物が間もなく返ってくるという奇怪な盗難事件が、ロンドン中で頻発していたのだ。一味のアジトを突き止めたホームズとワトスンが、そこで目にしたものは……?
 楽しく読めるスラップスティック風味の快作。原題は“home team advantage”のダジャレですが、邦題がかなりネタバレ気味なのが残念。

「消化的{アラメンタリー}なことさ、ワトスン君」 Alimentary, My Dear Watson (ローレンス・シメル)
 チャールズ・ドジスンという男が失踪した。来客はなかったはずなのに、ドジスンの部屋には見たこともない帽子が残され、鏡にはひびが入り、首をひねられた白ウサギが転がっていた。捜査を開始したホームズは、ドジスンと一緒に暮らしていた姪のアリスに質問するが……。
 いうまでもなく“アリス”をネタにした作品ですが、何とも微妙な後味。

「未来の計算機」 The Future Engine (バイロン・テトリック)
 ホームズは今までになく不機嫌だった。投資がことごとく下落し、ついに破産寸前にまで追い込まれたのだ。そんな中、訪ねてきた依頼人のバベッジ氏は、亡くなった父のチャールズが残した機械が盗まれてしまったことを告げ、その行方を探してほしいというのだが……。
 冒頭の、投資が暴落して不機嫌なホームズの姿が異彩を放っていますが、その後は比較的オーソドックスというか、やや面白味に欠けるというか。ネタは当然“アレ”です。

[第II部 現在のホームズ]
「思考機械ホームズ」 Holmes Ex Machina (スーザン・キャスパー)
 映画会社の製作部に所属する私、ジョン・ワトスン。今どきの映画はほとんどコンピュータで作られるようになっていた。ある日、フィルムが紛失する事件が起きたことをきっかけに、ワトスンはかねてからのアイデア、コンピュータのプログラムで小説からシャーロック・ホームズを作り出すことを試みる……。
 コンピュータ・プログラムでホームズを再現というネタは、さすがに安直なものに感じられます。

「シャーロック式解決法」 The Sherlock Solution (クレイグ・ショー・ガードナー)
 ある朝研究所に出勤してきたサマンサは、研究室と同僚の様子がおかしいことに気づく。誰もかれもが気取ってもったいぶった口調で、些細な事実を積み重ねた推理を披露するのだ。まるで普段みんながやっているゲームの中のキャラクター、シャーロック・ホームズのように……。
 同じくプログラム絡みでも、こちらはひねりが加えられて面白い作品になっています。同僚たちと取り残されたサマンサとの落差が何ともいえません。

「自分を造った男」 The Man Who Molded Himself (デイヴィッド・ジェロルド)
 とある原稿のコピーが、様々な経路で17部も出版社に届けられる。そのいずれにも、編者の一人・レズニックに宛てた奇妙な手紙が添えられていたが、原稿そのものの内容はさらに奇怪なものだった。あのワトスン博士が密かに残していたというその原稿に記されていたのは……。
 原稿のコピーと本書の編者であるレズニックに宛てた手紙、そして編集者からの注釈で構成された作品。ややありがちともいえる手法ですが、効果的ではあります。ホームズの鋭い推理に隠された秘密がなかなか強烈。

「脇役」 Second Fiddle (クリスティン・キャスリン・ラッシュ)
 捜査が難航する連続殺人事件に対して、本部長は名探偵ホームズを連れてくることを民間タイムトラベル会社に依頼した。それまで捜査の中心となっていたネッド・ザレスキー刑事は、名探偵の登場によって脇役に回ることを余儀なくされ、苦々しい思いをかみしめるが……。
 ホームズが登場している点以外は現代的なミステリ風ですが、事件そのものに加えて、突然ワトスン役を割り当てられることになった主人公ネッドの心中が見どころです。結末もなかなか印象深いものになっています。

[第III部 未来のホームズ]
「仮想空間の対決」 Moriarty by the Modem (ジャック・ニマーシャイム)
 犯罪捜査のために作られたプログラム〈シャーロック・ホームズ〉に対して、私は、同じくプログラムの〈モリアーティ〉を発見することを依頼した。〈モリアーティ〉は私が作業中に誤って世に放ってしまったのだ。依頼を受けたホームズは、サイバースペースを飛び回り、〈モリアーティ〉を追跡するが……。
 これもプログラムのホームズですが、同じプログラムのモリアーティとの対決がテーマとなっています。ややダジャレ風味のクライマックスを経た後、何とも心温まる結末が見事です。さりげなくバベッジネタが扱われているのも見逃せません。

「時を超えた名探偵」 The Greatest Detective of All Time (ラルフ・ロバーツ)
 今度の仕事は、24世紀の火星で何年にもわたって観光客が殺害されている事件の解決だった。かつて33世紀の警察から謝礼として譲り受けたテクノロジーを駆使し、すぐさま事件の概略を把握したホームズは、依頼人である火星警察の警部とともに現場へと向かった……。
 未来のテクノロジーを自在に使いこなすホームズとワトスンの姿がユニーク。そして、ひねりが加えられたプロットが非常によくできています。

「シュルロック族の遺物」 The Case of the Purloined L'Isitek (ジョジーファ・シャーマン)
 惑星ホルメスのシュルロック族――直立したポニーにそっくりな異星人――の指導者・シュルロックは、地球文明の探偵小説に夢中になっていた。シュルロック族の遺跡の調査にやってきた地球人の考古学者・ワトスン博士は、彼の“探偵活動”の相手をさせられていたのだが……。
 P.アンダースン&G.R.ディクスン〈ホーカ・シリーズ〉を思わせる、ユーモラスな雰囲気の異星人シュルロック族が登場する作品です。愉快な“名探偵”シュルロックの活躍はなかなか見事で、非常に楽しい作品となっています。

「不法滞在エイリアン事件」 The Adventure of the Illegal Alien (アンソニー・R・ルイス)
 AI(人工知能)のシャーロック・ホームズが作り出された。依頼人は失脚して地球に不法滞在中のエラワジア星人で、あるエラワジア星人の死に土地問題絡みの疑問を抱いているという。自分が本物のホームズではないと推理したAIのホームズは、本物のホームズを探しつつ早速捜査に取りかかった……。
 事件の顛末よりも、AIのホームズによる本物のホームズの探索の方が面白く感じられます。少しだけ登場する、イルカの警部補が魅力的。

「五人の積み荷」 Dogs, Masques, Love, Death: Flowers (バリー・N・マルツバーグ)
 宇宙船の中で五人の積み荷が次々と殺される事件が起き、タンクの中で眠っていたシャロンが目覚めさせられた。事件解決のために復元・作動させられた〈ホームズ〉の動作がおかしく、ひどく調子が悪いらしい。シャロンは〈ホームズ〉の点検をさせられることになったのだが……。
 宇宙船内での殺人を扱った作品で、主人公が覚醒させられたばかりで不安定な状態であることもあって、かなり難解なものになっています。異様な姿の〈ホームズ〉も不気味な印象を強めるのに一役買っています。

「未来からの考察――ホームズ最後の事件」 You See But You Do Not Observe (ロバート・J・ソウヤー)
 マイクロフト・ホームズと名乗る科学者によって、2096年へと連れてこられたシャーロック・ホームズとワトスン博士は、重大な謎を解くことを依頼される。それはフェルミのパラドックス――異星人の不在という問題だった。最新の物理学の知識を身に着けたホームズが、最終的に導き出した驚くべき真相とは……?
 比較的オーソドックスなネタを扱ったSFにミステリ風の味付けを施すR.J.ソウヤーらしく、未来に連れてこられたホームズが宇宙的なスケールの謎を解くという、正統派SFミステリともいえる作品です。プロットの展開も意表を突いたもので、面白いと思います。ラストも印象的。
 なお、この作品は「ホームズ、最後の事件ふたたび」という題名で邦訳されています(内田昌之訳 SFマガジン1996年10月号掲載/山岸 真編『90年代SF傑作選 下』(ハヤカワ文庫SF)収録)。

[第IV部 死後のホームズ]
「幻影」 Illusions (ジャニ・リー・シムナー)
 ホームズをライヘンバッハの滝に沈め、ようやく本来やりたかった歴史小説の執筆に取りかかろうとしていたアーサー・コナン・ドイルは、とある降霊会に参加することになった。常日頃から、霊が実在するという証拠を欲していたアーサーだったが、その降霊会で起こったのは……。
 ホームズ(ないしホームズ役の人物)が登場せず、アーサー・コナン・ドイルが主役となった異色の作品で、パロディとはいえこれだけホームズ譚を読み続けてきた中では、かなり新鮮に感じられます。もちろん、内容の方もなかなかのもの。降霊会をネタに使っているのが巧妙です。

「“天国の門”の冒険」 The Adventure of the Pearly Gate (マイク・レズニック)
 宿敵モリアーティ教授とともにライヘンバッハの滝壺へ転落していったホームズ。だが、いつの間にか教授は消え失せ、周囲の様子も一変してしまった。ホームズは天国にたどり着いたのだ。しかしそこは、獲物がまったくいない、ホームズにとって退屈極まりない場所だった。ところがある時……。
 “最後の事件”の後、天国へとたどり着いたホームズの冒険を描いた作品。天国がホームズにとって地獄のような場所だというのが笑えます。事件の方は何だかわかるようなわからないようなものですが、物語として面白く感じられます。そしてもちろん、お約束ともいえる結末も。

2006.09.15読了  [マイク・レズニック&マーティン・H・グリーンバーグ 編]
ホームズSFパロディ短編(その他)   ネタバレ感想

[紹介と感想]
 『シャーロック・ホームズのSF大冒険(下)』「監訳者あとがき」で紹介されているものを中心に、他のホームズSFパロディ短編をいくつか紹介しておきます。

 これらの作品は個別に読まれる場合が多いと思いますので、ネタバレ感想は伏せ字にしておきます。作品ごとに範囲指定してお読み下さい。

「時空海賊事件」 The Adventure of Snitch in Time (マック・レナルズ&オーガスト・ダーレス)
  風見 潤訳 別冊奇想天外13号「SF MYSTERY大全集」掲載
 退屈を持てあます名探偵ソーラー・ポンズのもとに、奇妙な依頼人が訪れる。地球連邦警察の捜査官と名乗った依頼人は、ライヘンバッハで死んだはずのポンズの宿敵・モリアーティが、異なる時空連続体へと侵入して美術品を略奪する“時空海賊”として暗躍していると告げたのだった……。
 M.レナルズとA.ダーレスによるソーラー・ポンズもの。ホームズ→ポンズ、ワトスン→パーカーと名前だけは変えてある(“モリアーティ”はそのままだったりするところはよくわかりませんが)ものの、雰囲気はホームズとワトスンそのものです。
 物語は謎解きではなく難題の解決である上に、今ひとつ面白味のないものになっていますが、結末あたりの処理はまずまず。

「異星人ロンドンに現わる」 The Adventure of the Extraterrestrial (マック・レナルズ)
  宮脇孝雄訳 ハヤカワミステリマガジン1977年4月号掲載
 すっかり年老いてベイカー街へと戻ってきた名探偵のもとに、旧知のアレグザンダー卿から舞い込んできた依頼は、ロンドンに異星人がやって来ているかどうかを調査するというものだった。正気を疑う旧友の医師の心配をよそに、依頼を受けた名探偵は調査に乗り出したのだが……。
 固有名詞は記されていませんが、名探偵と医師がホームズとワトスンであることは明白。すっかり年老いてしまった名探偵の姿には哀愁が漂いますが、それでも鋭い着眼点を見せるあたりはさすがです。しかし結末の思わぬしたたかさと皮肉な態度には、やはり歳月を積み重ねたことによる変化がうかがえ、微妙な苦さが残ります。

「スカーレティンの研究」 A Scarletin Study (ジョナサン・スウィフト・ソマーズ三世(フィリップ・ホセ・ファーマー)
  風見潤/安田均 編 『世界SFパロディ傑作選』(講談社文庫BX251・入手困難)収録
 ヴァイシュタイン博士は、探偵のラルフ・フォン・ヴァウ・ヴァウと一緒に下宿で暮らし始めた。そこへやってきた依頼人は、高名な画家・スカーレティンの妻。スカーレティンは誘拐されて身代金代わりに絵を描かされているらしい。発見された絵の中に、スカーレティンが隠した伝言を読み取ろうとするラルフは……。
 SF作家P.J.ファーマーが変名で発表した作品ですが、この“ソマーズ三世”とは、カート・ヴォネガットの作品に登場する架空のSF作家“キルゴア・トラウト”の名義でファーマーが発表した(らしい)『貝殻の上のヴィーナス』に登場する、これまた架空のSF作家だそうです。
 内容の方は、第一章が『恐怖の研究』第一章に酷似しているなどパロディ精神あふれるものになっていますが、笑えるのはやはりラルフ・フォン・ヴァウ・ヴァウ自身だったり。

「終局的犯罪」 The Ultimate Crime (アイザック・アシモフ)
  池 央耿訳 『黒後家蜘蛛の会2』(創元推理文庫167-02)収録
 〈ブラック・ウィドワーズ〉の当夜のゲスト・メイスン氏は、〈ベイカー・ストリート・イレギュラーズ〉に提出するシャーロッキアン論文がまとまらずに悩んでいるという。モリアーティ教授が書いたとされる論文「小惑星の力学」を取り上げることにしたものの、肝心のその内容がまったく不明なのだ……。
 I.アシモフの短編ミステリ〈黒後家蜘蛛の会〉シリーズからの1篇で、題名だけしかわからない「小惑星の力学」の内容について、様々な推理が繰り広げられます。牽強付会気味なのはいつものことですが、アシモフらしさを感じさせるネタではありますし、壮大な印象を残す結末もよくできていると思います。

「無貌の神の恐怖 殺戮者ホームズの事件」 The Horror of the Many Faces (ティム・レボン)
  尾之上浩司訳 ハヤカワミステリマガジン2006年2月号掲載
 ワトスンは、親友ホームズの思わぬ姿を目にして驚愕する。常に悪を憎み、それと戦ってきた名探偵ホームズが、犠牲者をナイフで無惨に切り裂き、冷酷に心臓を取り出して観察していたのだ。そして同じ夜、ロンドンでは同じ手口の殺人が六件も起こり、目撃者が証言する犯人の姿は様々だった……。
 ホームズが殺人者に転じるという発端は某パロディ作品のような方向へ進むのかと思わせますが、実は題名でわかる人にはわかる(らしい)“アレ”にうまくつなげた作品です。変装が得意なホームズに向けられるワトスンの疑念が切なく感じられます。

「バスカヴィル家の宇宙犬」 The Adventure of the Misplaced Hound (ポール・アンダースン&ゴードン・R・ディクスン)
  稲葉明雄/伊藤典夫訳 『地球人のお荷物』(ハヤカワ文庫SF1576)収録
 惑星トーカを訪れた腕利き捜査員ジェフリイ。彼の任務は、トーカに潜伏している麻薬密輸一味の首領、に似た異星人の“ナンバー・テン”を逮捕することだった。協力を要請された地球の全権大使ジョーンズだったが、トーカの住民であるホーカ人たちは、ちょうどシャーロック・ホームズに夢中になっていて……。
 テディベアそっくりで地球文化の物まねが大好きな異星人・ホーカ人たちが引き起こす騒動を描いた、〈ホーカ・シリーズ〉の1篇。妥協を知らないホーカ人たちの徹底された物まねと、よりによって“犬”に似た犯罪者が組み合わさり、抱腹絶倒のドタバタが繰り広げられています。



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