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フライアーズ・パードン館の謎/P.マクドナルド

Mystery at Fryar's Pardon/M.Porlock (P.MacDonald)

1931年発表 森 英俊訳(原書房)

 現場からは確かに水が発見されていませんが、灰皿に灰が残っていないこと(184頁)やチャールズが調べた壺の様子(186頁)などから、灰皿と壺に水が入れられたこと、ひいては壺に入っていた水を灰皿に移して溺死させたという真相は、たやすく見抜くことができるでしょう。

 あとは現場に水を持ち込む手段と、使った水を処分する方法ということになりますが、まず前者については、端的にいえば“何とでもなる”という投げやりな解決で、呆れるより他ありません。一方、後者についての驚くべきバカトリックは、馬鹿馬鹿しすぎて想像もしないような類のものといえるかもしれませんが、“コロンブスの卵”に通じる意表を突いた発想で、十分なインパクトを備えていると思います。もっと単純に、持ち込んだ時と同じ手段で持ち出せばそれですむようにも思えるのですが、一番手っ取り早くて安全な(犯人の体への影響はさておき)方法だというのは確かです。

 さてそうなると、電話がかかってから一同が駆けつけるまでのわずかな時間ですべてを行うことは困難だと考えられるので、当初からいかにも怪しげだった被害者からの電話がやはり偽装だったという、面白くも何ともない真相が見えてしまいます。おまけに、この時点で犯人もほとんど見え見えです。

 さらに、密室は“ピンと糸”か合鍵、電話は声色、解決は降霊会をネタにした強引な自白ときては、どこを楽しめばいいのかわかりません。

2006.05.25読了

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