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はじまりの島/柳 広司 |
2002年発表 (朝日新聞社) |
第一の事件(マシューズ神父殺し)の革紐を使ったトリックは古典的ともいえるもので(ミステリクイズなどでもよく登場しています)、見破ることは簡単だと思います。しかし、この革紐による緩慢な死が、ラストで艦長が見せた一世一代の演技につながっているところは見事です。 その第一の事件で犯行の機会があった人物、そして足音(靴音)をさせずに被害者に近づくことができるという特徴を考え合わせれば、犯人は自ずと明らかでしょう。しかし、犯人が明らかになった後に残る、動機の不在という謎がこの作品の中心になっているといっても過言ではありません。 この作品では、〈ビーグル号〉のガラパゴス諸島への航海という特殊な舞台が、見事に事件と結びついています。ゾウガメを使った死体移動トリックもガラパゴス諸島ならではのものですが、それ以上に犯行へと至る犯人の心理が秀逸です。犯行のきっかけとなったのは、ダーウィンがガラパゴス諸島のフィンチの嘴を手がかりに構築した“進化論”の原型であり、まさにこの時、この場所でなければ起こり得なかった事件といっても過言ではありません。そして探偵役となっているダーウィンにとっては、自身が引き起こした事件ともいえるわけで、鮮やかに謎を解きながらも悄然としたその姿にも納得できるものがあります。これが『種の起源』発表までの長い年月の説明となっているところもよくできています。 犯人であるジェイミー少年の特殊な境遇も印象的です。かつて、イギリスに連れてこられたことで世界観の転換を余儀なくされた彼にとっては、ダーウィンによって提示された新たな世界観を無批判に受け入れることも困難ではなかったのでしょう。 2002.12.05読了 |
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