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ヨギ ガンジーの妖術/泡坂妻夫

1984年発表 新潮文庫 あ23-2(新潮社)
「王たちの恵み」
 募金箱に仕掛けを施したのが、“あの男がホテルに現れると、奇妙に盗難事故が起こる”(14頁)と疑われているガンジー自身であるために、少々うさんくさく思えるのは確かですが(苦笑)、一応は不可能状況の中で募金が“どうやって盗まれたのか”という謎が前面に出されます。それに対して、これ以上ないほど逆説的な真相――最初から募金が入っていなかったというだけでなく、“不可能状況”のせいで事件の様相を呈することになった――が非常に秀逸。
 読んでいるこちらの側まで何だかいたたまれなくなる真相ですが、それはガンジーの解き明かす“背伸びしている”(45頁)心理が普遍的であるためで、説明されてみれば十分な説得力が備わっていると思います。

「隼の贄」
 予言を成立させるトリックとしては、〈予言→結果〉の順(予言を何者か*1人為的に成就させるもの)と、〈結果→予言〉の順(後からの予言を“先”だったように見せかけるもの)の二つが考えられますが、後者が採用されているこの作品では封印という“密室”をうまく使ったトリックがよくできています。もっとも、霊場の看板の“肩上がり”(55頁)の手蹟に対して予言の文字が肩下がり(77頁)であったことから、そこにトリックが仕掛けられていると見当をつけることはさほど難しくないかもしれません。
 しかし、トリックのもう一つの重要な要素――不動丸が被害者を知る機会が、巧みなミスディレクションによってしっかりと隠蔽されているのが見事。“自分で予言書を運びたい”というのは見るからに怪しい申し出ですが、それによって電話をかける機会を得るという意図まで見抜くのは、少々難しいように思います*2

「心魂平の怪光」
 詐欺や“殺人”はまだしも、UFO騒動にまでが関わってくる徹底ぶりに脱帽。終盤の“念力対決”でも当然のように鼠が扱われていますが、ここでは冒頭の吹矢の一幕をレッドへリングにして“七歩丸”を使う、周到なトリックが光ります。
 しかし最大の見どころはやはり、八木徳三郎が大量の鼠を必要とする理由で、それ自体のインパクトもさることながら、美人アナウンサー赤染明子の紹介(116頁)の中に巧みに伏線が仕込んであるのがさすがです。

「ヨギ ガンジーの予言」
 「隼の贄」でも使われている〈結果→予言〉の順のトリックの変形ですが、こちらは人物の錯誤によるアリバイトリックに通じるもの。色鉛筆にビニールテープを巻くという簡単な手段で、実際には二番目の予言を〈第一の予言〉へ、三番目の予言を〈第二の予言〉へ、そして最初の予言を〈第三の予言〉へとスライドさせるトリックが非常に鮮やかです。しかも、〈第一の予言〉と〈第二の予言〉の的中を布石として、〈第三の予言〉で屋敷を留守にさせる――的中させようのない〈第三の予言〉こそが“本命”である――企みがよくできています。
 飛行機が墜落した“流桃山”が予言では“竜の頭”とされていたことが、薬小路車契がラジオで情報を仕入れていた*3ことを指し示す手がかりとなっているのが巧妙。確かに“りゅうとう”と聞いて“流桃”を思い浮かべるのはほぼ間違いなく無理で、うまいネーミングだと思います。

「帰りた銀杏」
 〈枯木術〉などハウダニットにはあまり重きが置かれていない、このシリーズとしては異色の作品で、これも珍しくフーダニットの要素も(一応は)あるものの、中心となるのはやはりホワイダニット。“帰りたい”という言葉と、銀杏が枯らされたことを考え合わせると、犯人にとって銀杏が邪魔物だという結論が導き出されるのは道理ですが、“UFO観測の邪魔”という真相はなかなか凄まじいものです。加えて、オレンジ色の道路などを除けば何の変哲もない街の様子が、UFOのための“宇宙ステーション”に変じてしまうのには、思わず唖然とせざるを得ません。

「釈尊と悪魔」
 葵霧丸の不可解な言動が偽悪的な演技だったという真相は、誰しも予想するところではないかと思いますが、冒頭に登場する“栴檀の木の苗木”まで伏線として組み込まれているのが心憎いところです。
 そして、その演技の動機――誰に、何のために見せていたのか――は実によくできています。とりわけ、単に葵劇団が好きだというだけでなく、釈尊さながらの境地に至ることができる場だという理由は秀逸で、作中の釈尊劇や題名と重なり合ってこれ以上ないほど印象深いものになっています。

「蘭と幽霊」
 防曇剤でエクトプラズムを出現させるトリックは、よくできてはいるもののやはり小粒。しかし市長のポスターを小道具として使うことで、分身の出現という方向に発展させてあるのが巧妙*4で、後ろ暗いところのある市長の態度も相まって話が大きくなり、蘭の“盗難”事件までうまく組み合わされて、なかなかの読みごたえのある佳作に仕上がっていると思います。

*1: 必ずしも予言をした当人とは限りません。
*2: 残念ながら、携帯電話が一般的になった現在では成立しないトリックではありますが……。
*3: これも「隼の贄」と同じく、携帯電話の存在によって成立が危うくなるトリックといえるかもしれません。情報が遮断されていることを立証するのが難しい現在にあっては、予言トリックがかなり困難になっているということでしょうか。
*4: ガンジーが最後に指摘しているように“急遽筋書きを脹らませることを思い立った”(316頁)のは見え見えで、季貞エメラルドの怪しさが増しているのは否めませんが、もともとフーダニットではないのでさして問題はないでしょう。

2001.04.11再読了
2012.08.28再読了

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