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しあわせの書/泡坂妻夫 |
1987年発表 新潮文庫あ23-3(新潮社) |
端姉日導が行う読心術については、ガンジーが「しあわせの書」に不審を覚えていることもあって、本自体に仕掛けが施されているという可能性は頭に浮かびやすいのではないでしょうか。しかしこの点については、トリック自体よりもその使い方の方がすぐれていると思います。このトリックは、どのような本でも行うことができるわけではないので、仕掛けのある本を選ぶこと自体が不自然になってしまう場合が多いのではないでしょうか。しかしこの作品では、宗教団体の教典に仕掛けが施されているため、教団内部では仕掛けの隠された本が最も一般的であり、しかもデモンストレーションとして意義があることになるわけです。このように、トリックを成立させるために本の選択の不自然さを排除した計画は、非常によくできているといえます。 さらにこの「しあわせの書」にはもう一つのトリックが仕掛けられています。断食の行に備えて食べられる紙に印刷されたこの本は、上記のトリックと同じ理由によって、自然な状態で断食の行に持ち込むことができるわけで、鷹狩月聖(海尻五郎)の遠大な計画はまさしく“悪魔の知恵”というべきでしょう。 そして、最後に示唆されている本書の仕掛けには愕然とさせられました。作中で使用されているトリックを実行することができるという途方もないもので、前代未聞にして空前絶後、泡坂妻夫以外にはなし得ないと思える試みです。本書はまさに、ミステリ史上に燦然と輝く異色作といえるでしょう。 2001.04.12再読了 |
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