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三人のゴーストハンター/我孫子武丸・他 |
2001年発表 (集英社) |
洞蛙坊 (田中啓文)
最初のエピソード「熱キ血汐ニ……」からパワー全開の洞蛙坊ですが(“ババ囲い”には絶句)、次の「常世の水槽」でそれが最高潮に達しています。“金やぐら”という術も相当なものですが、“さらに倍”(懐かしのテレビ番組「クイズダービー」ですね)・“倍やぐら”という小ネタや、ラストの“駄邪霊”も決まっています。
しかしその洞蛙坊も、「血まみれの貴婦人」では敗北寸前の苦境に追い込まれています。幻慈坊というライバルの存在もあって、初心を取り戻したシリアスな雰囲気が、最後のエピソードへとうまくつながっています。
そしてラストの「洞蛙坊の最期」では、かなりの技巧が凝らされています。それまでのすべての事件(他の作者の分も)を伏線にして地図上に同心円を描き、さらにそれをひっくり返して〈ドーマンセーマンの大結界〉という秘技を持ち出しているあたりもよくできていますが、その結界が頻発する怪事件の原因にもなっているところが秀逸です。
屋敷に入ってからも逆転また逆転という展開で、なかなか楽しめます。ただ、“その場には必ず、小百合……おまえがいた” (本文365頁)という国枝の台詞は、若干問題ありでしょうか。建前上は小百合も怪現象が発生してから現場に向かったことになっているのですから。まあ、密かに結界を脱出しようとあがいた結果、怪現象が怒ったとも考えられますが。
真相が明らかになった後、洞蛙坊の最後の呪法〈阿修羅合身・人形の法〉には爆笑です。“三人称単数現在”や“三テグジュペリ”にも呆れますが、“ひ・と・がた”という超絶(なのか?)ダジャレには呆然とせざるを得ません。
不吉な予感を感じさせるエピローグもいいと思います(“結界の外では既に1999年になっていた”という理解でいいのですよね?)。
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比嘉薫 (牧野修)
「獣日和」・「鳥迷宮」の真相は妥当なところでしょう。
「葛千夜」の、修司が存在しなかったという真相は、驚きを感じさせるとともに説得力を備えています。最後の対決に臨む前の、けじめをつけるエピソードとしてよくできているといえます。
「虫籠ノ閨」のラストは壮絶です。他人の妄想を目にしてきた比嘉が、絶望と孤独の果てにすがる自分自身の妄想。とてつもない“ハッピーエンド”です。
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山県匡彦 (我孫子武丸)
「楕円形の墓標」・「呪われた偶像」・「ハネムーン・スイート」は、いずれもいかにもミステリ作家という感じの解決です。特に「ハネムーン・スイート」の真相は、東野圭吾『探偵ガリレオ』などにも通じるところがあります。
「真実のありか」では、一旦はアヘンの影響という合理的な(しかしさほど面白く感じられない)解決がなされますが、最終的にはホラー的な真相になっています。もちろん最大の驚きは、山県自身が幽霊だったことです。その伏線としては、登場のたびに国枝や小百合が驚いていたことや、「呪われた偶像」の中の“同じように階段の一番上からゆっくり降りてみた。さっきとは何かが違う。” (本文231頁)という記述、すなわち山県自身の影がなかった(と思われる)ことなどが挙げられるでしょう。
ラストでは、山県は“ゲル”とともに成仏しています。霊の存在を信じていなかった山県にとって、真実を知ると同時に消滅してしまうことが、自分の信念を守ることにつながったのかもしれません。
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2002.01.15読了
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