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銀座幽霊/大阪圭吉 |
2001年刊 創元推理文庫437-02(東京創元社) |
一部の作品のみ。
- 「三狂人」
- “トントン”の紹介のところに、
“「トントン」のいつも立っている窓の下の畳の一部は、トントンとやる度毎の足裏の摩擦でガサガサに逆毛立ち、薬研のように穿くれていた。” (13〜14頁)という伏線が張られていますが、足の裏を直接描写するのではなく畳の描写で暗示しているところが巧妙です。
一方、“柔かな両足の裏” (31頁)に付された傍点は、あまりにも親切にすぎるでしょう。
- 「銀座幽霊」
- 冒頭の
“青いネオン” (41頁)という大胆な(?)伏線が効果的です。
- 「寒の夜晴れ」
-
“また雪の季節がやってきた。雪というと、すぐに私は、可哀そうな浅見三四郎のことを思い出す。” (68頁)という冒頭の一文に、結末が暗示されてしまっているのが残念。会おうと思えば会うことのできる人間については、普通はこのような書き方はしないのではないかと思います。
スキー跡のトリックは非常に秀逸です。片杖のスキー跡が一つしか残らなかったこと、そして犯人がすぐ隣の空き家に向かったためにその痕跡が目立たなかったことなど、よく工夫されていると思います。
- 「動かぬ鯨群」
- 北海丸の沈没で死んだはずの安吉が生きていたことから、まず考えられる可能性は、安吉が北海丸に乗っていなかったか、あるいは北海丸が沈没しなかったか、の二つ。そして、
“恐ろしい陰謀” (134頁)という安吉の言葉と、捕鯨船の建造が制限されていること、そして第二の北海丸が建造されていることを考え合わせると、真相は自ずと明らかでしょう。
- 「花束の虫」
- “花束の虫”という意味ありげな言葉が事件と直接関係ないところはやや残念ですが、ダンスを格闘に見せかけるという奇想はただごとではありません。
- 「闖入者」
- 大月弁護士が解き明かしたのは富士山の絵の真相のみで、事故死だという証明にはなっていないのではないでしょうか。
- 「大百貨注文者」
- 暗号は面白いのですが、監禁された状態で何度も、しかも怪しげな内容の電話をかけることができるとは思えません。
- 「幽霊妻」
- 現場に残された手がかりが、がらりとその意味を変える結末が見事です。しかし、犯人像の落差があまりにも強烈で、どこか苦笑を禁じ得ません。
2005.08.10読了 |
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