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神様ゲーム/麻耶雄嵩

2005年発表 ミステリーランド(講談社)

 “神様”である鈴木君が明言した断片的な真相、あるいはその他の手がかりなどをもとにして考えると、事件の大まかな流れは以下の表のようになります。

[事件の流れ]
 裏庭屋敷外部
英樹到着 ミチル・共犯者英樹
英樹殺害 ミチル・共犯者
英樹の死体
 
ミチル脱出共犯者
英樹の死体(裸にして井戸へ)
 ミチル(英樹の服)
俊也到着共犯者(裏口を施錠) 俊也(“英樹”を目撃)
全員集合共犯者(隠れる)芳雄・孝志・俊也・聡美
ミチル(英樹の服を持参)
 
死体発見芳雄・孝志・俊也・ミチル・聡美
共犯者(隠れたまま)
  
退散→連絡 共犯者(開かずの部屋)芳雄・孝志・俊也・ミチル・聡美
再度裏庭へ芳雄・孝志・俊也・聡美
ミチル(裏口を閉める)
 共犯者(脱出)

 裏口が裏庭側から施錠されていたことから、その時点で共犯者が裏庭にいたことは確実だと思われます。したがって、共犯者が無事に脱出するためには、探偵団全員が原っぱへ退散している間に屋敷の中の開かずの部屋に隠れておき、探偵団が再度裏庭へ移動するのをやりすごすしかありません。そうなると、(ミチルと協力して)探偵団を裏庭へ移動させた芳雄の父親が共犯者である、という芳雄の推理がしっくりくるのは確かです。

 しかし、最後に“神様”による天誅が下されたのは芳雄の母親。つまり、“神様”を信用する限り、共犯者はあくまでも芳雄の母親であって父親ではない、ということになります。父親がまったく共犯関係にないとすれば、英樹の死体を確認せよという指示には作為がなかったことになりますが、あくまでも事故と判断する限りにおいては妥当な指示だと思われますし、裏口の施錠については英樹自身によるものとも解釈できるので、事故だと考えるのも無理からぬところかもしれません。また、芳雄の父親への連絡を提案したミチルの意図は、110番への正式な通報よりも発見者の身内への非公式な通報という形を取ることで、共犯者のために時間を稼ぎたかったとも考えられます。そして共犯者の脱出については、たまたま訪れた機会を生かしたにすぎず、もともとミチルが適当なタイミングで全員を裏庭へ誘導する(あるいは怯えたふりをして現場から逃げ出す)手はずだったのではないかと思われます。

 共犯者が隠れた場所が、当初の芳雄の推理通り井戸の蓋の下だった(母親はかなり小柄だったようです)とすれば、物置小屋に痕跡が残ることもありません(もともと乱雑だった開かずの部屋からは、共犯者の痕跡を発見するのは困難では?)。ミチルの動機が“エッチの現場を見られたから”(260頁)というのが少々引っかかりますが、共犯者が芳雄の母親単独でも十分に成立しそうに思えます。

 いずれにしても、事件の真相は子供の、とりわけ芳雄自身の知識やロジックでは決して到達し得ないものといえるでしょう。そしてそこに、“頭脳は大人”の名探偵(“体は子供”でなくてもかまいませんが)を配するのではなく、全知全能の神様という無謬の名探偵を登場させることで、残酷な真相を絶対の真実として芳雄に受け入れさせるという極端な手法が採用されているところが、いかにも麻耶雄嵩らしいと思えます。

2006.11.27読了

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