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1/2の騎士/初野 晴

2008年発表 講談社文庫 は89-1(講談社)
「もりのさる」
 “Money”→“Monkey”の隠語はたわいもないといえばたわいもないものですし、ブルーカラーやホワイトカラーがストレートに表されているところなどは、真相が明らかにされてみるとやや拍子抜けの感もあります。が、そこはかとなく漂うゲーム感覚が中学生を相手にした犯罪らしいともいえますし、悪い意味での“気軽さ”を生み出すのに一役買っているように思われます。

「ドッグキラー」
 サファイヤの活躍で凶器が発見されるところもよくできていますが、いまの話で犯人をつかまえてくれますか?”(187頁)というさりげない手がかりから、盲導犬殺害の裏に隠されたもう一つの事件が浮かび上がるのが秀逸です。

「インベイジョン」
 “パスポート、部屋のインターネットの接続環境、予約した覚えがないのに録画されたビデオ”(315頁)という三題噺から、あまりにも意表を突いた真相が飛び出してくるのが見事。そしてもちろん、パソコンの中の大麻という意外すぎる組み合わせのインパクトが強烈です。
 ただし、“インベイジョン”が成長した大麻を回収するだけでなく、一部の女性を警察に密告していたのであれば、パソコンの内部で大麻を栽培するという手口はすでに警察に知られているはずで、いつまでも“インベイジョン”の犯行が露見しないのは不自然なようにも思えます*1。また、冠木は知人の女性に大麻所持容疑がかけられたことを知っているのですから、(大麻がどこにあったかまでは知らされなかったとしても)“インベイジョン”と大麻を結びつけて考えることがあってもよさそうに思われます。

「ラフレシア」
 有機リン剤を散布する手口――盲点となる形に変えて人目を欺く手口が非常によくできていますが、それを読者に納得させるための伏線が、前のエピソード「インベイジョン」の中に配されている*2のが実に巧妙です。
 “オッドアイの女性”(209頁)とされていた“ラフレシア”に、“得体の知れない巨人”“幽霊みたい”(404頁)といったイメージを加え、それに対して“ハロ”・“ロク”・“サン”が現場を訪れていたという“解決”をもたらすことで、ミスディレクションに仕立ててあるのがうまいところ。とはいえ、終盤になると“ラフレシア”の正体は見え見えではあるのですが……。
 サファイヤは“ラフレシア”の動機を、天気予報を的中させるために“街の住人を人質にして、自分を追いつめる形”(532頁〜533頁)をとったと推理していますが、これにはやや疑問。毒物を仕掛けたのは“雨”の予報をした後のはず*3ですから、“自分を追いつめた”後で“ハロ”にできることは、すでに下した予報が的中するのを祈るしかないことになります。つまり、“ハロ”=“ラフレシア”の中では、“雨”の予報の後に毒物を仕掛けることが既定の行動になってしまっているということかもしれません。

「グレイマン/灰男」
 特になし。

*1: もっとも、大麻栽培に関する知識がネットなどで共有されることは十分にありそうですから、縁もゆかりもない女性たちの“手口”が共通していることにも、さして疑問は抱かれないかもしれません。
*2: “ナパージュという甘い凝固剤で作った水滴。(中略)確かに本物の水滴と見間違うほどの出来だった。”(268頁〜269頁)
*3: “雨”の予報が外れた時にのみ意味を持つ仕掛けであり、“雨が降らない”という予報の際には犯行に至らない――的中すると事件が起きるというおかしなことになる――のですから、予報を下す前に毒物を仕掛けるはずはありません。

2010.03.05読了

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