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サム・ホーソーンの事件簿 III/E.D.ホック

Diagnosis: Impossible 3/E.D.Hoch

2004年発表 木村二郎訳 創元推理文庫201-05(東京創元社)

 一部の作品のみ。

「ハンティング・ロッジの謎」
 ホースの跡と自転車という組合せが巧妙です。ホースの跡の上を正確にたどるのは難しいかもしれませんが、形状が似ているのでさほど問題ないのではないでしょうか。それよりも、乗り降りの際に足跡が残りそうなのが気になります。もちろん、タンクの周辺が屋根で覆われていれば問題ないのですが、そのあたりははっきり書かれていません。

「干し草に埋もれた死体の謎」
 解決につながる帽子や身長もさることながら、熊の行動という伏線が秀逸です。某新本格作家のある作品を思い起こさせます。

「墓地のピクニックの謎」
 犯人たちの計画もなかなかのものですが(いくら何でも強引すぎるでしょう)、解決につながるテディーの暴行未遂のきっかけが笑えます。
 被害者の胃が空っぽだったことで、サム・ホーソーンが目撃したのが偽者だったことは明らかなはずですが、これはすぐに気づかなくてもおかしくないところでしょうか。

「防音を施した親子室の謎」
 “そのジャケットにはたいした損傷はなかった――裏地に血の染みが一つか二つしかついていなかったんだ”(157頁)という台詞でジャケットに穴があいていないことを暗示するのは、やや微妙にも思えますが、アンフェアとまではいえないでしょう。
 本当の問題はむしろその後で、聞き手(及び読者)に対しては濁して語られているにしても、銃弾がジャケットを貫通していないことは一目瞭然のはずですから、それを示す重要な証拠物件であるジャケットを、そのまま町長に返却してしまうのはいただけません。

「描きかけの水彩画の謎」
 電話のベルのトリックについては、あまりにもお粗末といわざるを得ません――現代の事件であれば。しかし、電話交換手が存在する時代だということを考えると、少なくとも作中では成立してもおかしくないのかもしれません。この時代の電話のシステムがよくわからないので、何ともいえない部分は残ります。いずれにせよ、現代の読者にとってはかなり微妙なトリックです。
 一方のラジオのトリックも、この時代ならではのように思えます。掃除婦が電気掃除機を使っていれば一発でばれてしまうのではないでしょうか。

「密封された酒びんの謎」
 酒が配達されたばかりのように見せかけるという、心理的なトリックが非常に秀逸です。特別なお祝いの席だけに、演出効果を狙ってもまったく不自然ではないところがよくできています。
 ただ、サム・ホーソーンが犯人の動機まで推理してしまったのは、いかがなものかと思います。ノースモントの住民であればガスと町長らの交流を知っていても不思議はないのですが、少なくとも語られた内容からだけでは、やはり飛躍があるといわざるを得ません。

「窓のない避雷室の謎」
 “ドッペルゲンガー”の解決として、そっくりな血縁者というのはありがちなものですが、異性だというところでまず一ひねり。しかも、序盤ですでに登場しているというのが見事です。

2004.09.24読了

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