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自来也小町/泡坂妻夫

1994年発表 (文芸春秋)

 一部の作品のみ。

「自来也小町」
 逆さに立てられた屏風に書き残された“自来也”という文字が、うまい手がかりとなっています。と同時に、それがミスディレクションとしても機能しているところが見事です。

「毒を食らわば」
 この作品で使われている“曼陀羅華”(気狂い茄子)とは、チョウセンアサガオ(Datura sp.)のことで、有毒アルカロイドのヒオスシアミンを含んでいます。このヒオスシアミンが接ぎ木された茄子に移動するかどうかですが、調べてみたところ、カリフォルニア大学デービス校で行われている講義の概要を掲載したページの中に、以下の記載がありました。

 The documented cases of poisoning by eating tomatoes, involved the grafting of tomato scions on Datura (`Jimson weed') rootstocks to avoid vascular diseases, when Fusarium and Verticillium cultivars were not available. If leaves of Datura are let to develop on the rootstocks, potent alkaloids might translocate to the tomato fruits.
このページから引用)


(意訳)
 トマトを食べたことによる中毒の報告されている例は、(中略)トマトの穂木をチョウセンアサガオの台木に接ぎ木したことによるものであった。台木上でチョウセンアサガオの葉が発育すれば、有効なアルカロイドがトマトの果実へと移動することもあり得る。
 ということで、台木となるチョウセンアサガオの葉が残っていれば、実現不可能とは言えない、ということになるでしょうか。
 いずれにしても、このネタを河豚鍋と絡めることで、被害者が自然に茄子を食べる状況を作り出すと同時に、中毒死の不自然さをある程度除いたところはうまいと思います。

「旅差道中」
脇差の行方を探すはずが、そもそも中身が脇差ではなかったという真相は、非常にユニークだと思います。
 しかし、話しの流れには若干無理があるようです。まず、鞘の二重構造はすぐに明らかになってしまいそうですし、例えそうでなかったとしても、中身に何が詰まっていたかは他の誰にもわからないのですから、犯人も言い逃れができるのではないでしょうか。

「夜光亭の一夜」
 同じ場所が見方によって床にも天井にもなり得るという発想は、いかにも泡坂妻夫らしさを感じさせるものです。ところで、やはり浮城は曾我佳城の先祖なのでしょうか。

「忍び半弓」
 男十郎親分によって次々と仮説が提示される過程はユニークです。ただ、半弓が笠に隠されていたという真相は、あまりフェアではないように感じられます。

2001.06.01再読了

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