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検死審問 ―インクエスト―/P.ワイルド

Inquest/P.Wilde

1940年発表 越前俊弥訳 創元推理文庫274-04/(黒沼 健訳『検屍裁判』 新潮文庫(新潮社))

 目次の中で目を引くのが「生きている死者の告白」という章題ですが、“スティックニー”が複数の執筆者によるハウスネームだったという真相にまず意表を突かれます。ただ、個人的には越前俊弥訳の“ミスター・偽スティックニー”という呼称よりも、黒沼健訳の“ミスター・スティクニでない人”の方が味わい深かったと思うのですが……。

 その“ミスター・偽スティックニー”が披露する推理はなかなかよくできています。本書で重要なポイントとなるミセス・ベネットの経歴を、ミセス・ベネット自身が語る昔話の中に登場する地名*、さらにライフルの外見といった手がかりから解き明かしていくあたりは秀逸ですし、チャールトンの人物像をもとに動機を導き出すところも見事です。

 ただし、タムズの意外な正体を明らかにするところまではいいとしても、その“自白”――“その気になればいつでも四十八点はとれます”(278頁)というはったりなど――に惑わされて真相を見抜くまでに至らなかったのが惜しいところ。それに引き替え、二挺目の銃の存在に気づいて手回しよく押収したリー・スローカム閣下の抜け目のなさが際立っています。

*: とはいえ、日本人には今ひとつわかりにくいのが難点ではありますが。

2004.08.13 『検屍裁判』読了
2009.03.30 『検死審問 ―インクエスト―』読了 (2009.04.27改稿)

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