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ジャックは絞首台に!/L.ブルースJack on the Gallows Tree/L.Bruce |
1960年発表 岡 達子訳 現代教養文庫3029(社会思想社) |
被害者たちが握らされたマドンナ・リリーで一連の事件だと強調されているのに加えて、一夜のうちに相次いで事件が発生したためにアリバイが成立しづらい――ということで、交換殺人の可能性が完全に否定されているのが目を引きます。これは、“紛れ”を排除するという意味で潔いといえば潔いのですが、その中で“両方の被害者に対して動機を持つ容疑者がいない”ことが強調されることで、しっくりくる構図がかなり限定されてしまうのが苦しいところ。 つまり、ミステリとしてあまりにも面白味に欠ける“動機なき殺人”を別にすれば、隠された共通の動機が浮かび上がってくるパターン(一種のミッシングリンク・テーマ)か、もしくはそれをレッドへリングにした――超有名な前例(*1)のある“連続殺人に偽装するための殺人”くらいしか考えられない(*2)わけで、少なくとも前例を知っていれば本書の真相(後者)に思い至るのはたやすいはずですし、そうなると一気に犯人までおおよそ見当がついてしまうため、意外性を生じる余地がほとんどありません。 それでも、そこに若干のひねりを加えてあるのがさすがというべきで、丹念に事情聴取を重ねたディーンがようやくひねり出した偽のミッシングリンク――“金商人エボニーに地金を売っていた”という被害者の共通点が、犯人への罠/読者へのミスディレクションとして扱われているのがユニークです(*3)。殺人狂の犯行という仮説をディーンが否定して回ることで犯人の不安を煽り、偽のミッシングリンクに飛びつかせようという企みは、なかなかよくできていると思います。 しかしながら、マドンナ・リリーを手にビックリー夫人を訪問し、勾留されたガブリエル――ミセス・ウェスマコットの死で利益を受けるので犯人の条件に当てはまる――が、真犯人ではなかったというどんでん返しは……演出効果が十分なのは確かですが、ディーンの企みは不発に終わってしまったことになりますし、(やや弱いとはいえ)他に真犯人を特定する決め手(変装してミセス・ウェスマコットを訪ねた犯人を目撃した、プラマー夫人の証言)があるのであれば、ビックリー夫人を囮にした危険な“罠”を仕掛ける必要性がなくなってしまうのではないでしょうか。
*1: 某海外古典((作者名)アガサ・クリスティ(ここまで)、(作品名)『ABC殺人事件』(ここまで))が有名ですが、他にも類似の前例や変形例があり、もはや(ミッシングリンクなどと同様に)一つのテーマといっていいかもしれません。
*2: 状況からみて、二人の被害者に別々の動機、という可能性は考えにくいと思います。 *3: 偽のミッシングリンクを扱った作品は他にもありますが、それを使って探偵役が犯人に罠を仕掛けた例は、ちょっと思い当たりません。 2001.12.17読了 2013.05.30再読了 (2013.06.16改稿) |
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