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時間帝国/川又千秋

1984年発表 カドカワ・ノベルズ24-2(角川書店)

 この作品のテーマは“時間の輪”とでもいうべきものです。泉のほとりの出会いから生まれた名前を持たない男の子が、運命に導かれてひたすら西へと旅し、やがては自分自身の父親となることで輪が閉じるという展開。幻想的な舞台設定のせいもあり、タイム・パラドックスに重点が置かれているわけではありませんが、R.A.ハインライン「輪廻の蛇」『輪廻の蛇』収録)などにも通じるところがあるといえるでしょう。

 しかし、この作品の最もユニークな点は、この“時間の輪”が単なる“輪”として閉じているのではなく、作中で“エルヴァの道”と名づけられているメビウスの輪となっているところです。長い旅を経て自らの母親となる娘に出会った主人公は、そこで“表の世界”から“裏の世界”へと足を踏み入れ、さらに西へと旅を続けた後に都を築いて“無名王”となり、旅の途上にある少年の頃の自分自身と出会うことになります。

 終章では、少年の頃の自分に傷を負わされた王が、再び西への旅に出ています。物語が幕を閉じても、“時間の輪”に沿った主人公の旅は終わらないということを暗示することで、いつまでも深い余韻を残す見事なエンディングとなっています。

2001.03.27再読了

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