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解体諸因/西澤保彦

1995年発表 講談社ノベルス(講談社)
「第一因 解体迅速」
[解体の理由:犯行の手口を特徴づけて、一連の事件だと誤認させるため]
 松浦康江の死体に残った擦過傷などは一応の伏線といえますが、やや飛躍しすぎでしょうか。面白い構図ではあるのですが……。解体の理由は比較的オーソドックスだと思います。

「第二因 解体信条」
[解体の理由:指の切断を隠蔽するため]
 “うっかり殺人”ともいうべき真相が、何ともいえません。

「第三因 解体昇降」
[解体の理由:持ち運びを容易にし、死体を早期に発見させるため]
 “16秒間の早業”が偶然の産物だったというのはやや拍子抜けですが、普通に考えれば不可能ですからどこかに錯誤があるはずで、真相は妥当なところでしょう。むしろ、尾崎の日付の錯誤を際立たせる手がかりとなっているところに注目すべきだと思います。犯人である横田の行動には唖然とさせられますが、ビデオテープを持ち出すことが不可能な状況を作り出すために、死体を発見させて警察にマンションを封鎖させる、という発想はユニークです。
 それにしても、この頃はまだベータがある程度生き残っていたのですね。時代の流れを感じさせられます。

「第四因 解体譲渡」
[解体の理由:死体をゴミ袋の中に隠しやすくするため]
 100冊の成人雑誌の意外な用途、そして心理的なトリックが秀逸です。

「第五因 解体守護」
[解体の理由:血痕の主を誤認させるため]
 無垢な子供の発想には、なかなかついていけない部分があります。

「第六因 解体出途」
[解体の理由:持ち運びを容易にすると同時に、現場を誤認させるため]
 現場を偽装するために、空き箱の中に死体のパーツが入っていると誤認させるトリックは、なかなかユニークだと思います。

「第七因 解体肖像」
[解体の理由:顔を知られないようにするため]
 ポスターのモデルが息子の死に関わっていることを兼松敦子が突き止めたとしたら、どう考えても直接乗り込んでくるはずですし、悪戯の発覚により起こったこと――ポスターの回収――を考えれば、真相は明らかでしょう。

「第八因 解体照応 推理劇『スライド殺人事件』」
[解体の理由:首をスライドさせていくことで殺人の順番を誤認させるため]
 実はミッシング・リンクがテーマとなっているこの作品ですが、そのミッシング・リンクといい、あまりにも大がかりで複雑なところといい、徹底的に現実離れしています。その意味で、フィクション性が強調される戯曲形式で書かれているのが巧妙です(次の「解体順路」では、真田奈津代が理解しやすいようにするため、と説明されているのですが、この理由は後づけのように思えます)
 連続殺人事件において事件の順番を誤認させるというトリックはしばしば使われますが、首のスライドによって順番を意識させ、しかも犯人自身の死が途中に挿入されている、というのは前代未聞です。この作品の“解決”では、横井譲二をうまく操ることでその不可能状況が達成されているのですが、特に被害者の髪を短く切るトリックが秀逸です。
 難点としては、祖父江道子の首の扱いが挙げられるでしょう。その首は、藁谷志保の胴体のそばで発見されたわけですから、横井譲二も当然その存在に気づいたはずで、何らかの不審を抱くのが自然ではないでしょうか。
 またもう一つ、“ホント/ハネイシ/ハコノコ/ノナカ”というメッセージにも問題があります。藁谷志保としては、メッセージの意味が横井譲二に確実に伝わらなければならないのですから、このような一見意味不明の分かち書きをするのは、やはり不自然でしょう。

「最終因 解体順路」
[解体の理由:実行犯を最初の現場に戻ってこさせるため]
 まず、実行犯である真田奈津代にとっては、兄に容疑がかかった「解体譲渡」の事件が引き金となったわけですが、この事件の真相は辺見祐輔が推理した通りではなく、「解体肖像」の事件と組み合わされたものになっています(ちなみに、辺見祐輔の推理には大きな飛躍があるため、ひっくり返しやすいのは確かですが、ここで示された真相の方が面白味に欠けるのは残念。また、相手をしっかり確認しなかったという落ち度が本人にもあるとはいえ、兼松敦子の扱いはかなり後味が悪いものになっています)
 一方、松浦雄一にとっては、「解体迅速」の事件の真犯人である土居淑子が標的であり、真田奈津代に彼女を殺させるために「解体照応 推理劇『スライド殺人事件』」を書き上げています。
 その他、「解体出途」で匠千暁と平塚刑事が出会っていること、「解体昇降」で平塚刑事の上司である中越警部が謎解き役をつとめていること、そして「解体守護」で匠千暁と辺見祐輔が知り合いだということが示されていることなども、この作品につながる伏線といえるかもしれません。

 この作品の事件では、とんでもない真相の「解体照応 推理劇『スライド殺人事件』」が、そのまま殺人のシナリオとして使われているところがよくできています。そしてもちろん、あまりにも意外な首切りの理由が見事です。

2003.08.16再読了

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