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キッド・ピストルズの冒涜/山口雅也 |
1991年発表 ミステリ・フォー・ユー(東京創元社) |
- 「「むしゃむしゃ、ごくごく」殺人事件」
- 50年間家から一歩も出ることなく、独自の“夢幻の世界”に暮らしてきた被害者。その彼女を動かしたのがおみくじクッキーというのが泣かせます。
その一方で、被害者がいきなりダイエットを始めてしまうという、犯人にとっての大きな誤算が、犯人自身が用意したおみくじによってもたらされているところが何とも皮肉です。
- 「カバは忘れない」
- 真の標的がカバだったことがわかれば、真相までは一直線です。ダイイングメッセージに関する議論は、パロディ的な意図もあるのかもしれませんが、かなり不毛に感じられます。ダイイングメッセージが“真の被害者”を示しているという真相は、なかなか面白いのですが……。
- 「曲がった犯罪」
- この作品では“曲がった硬貨”が最終的な決め手となっているわけですが、凶器となったオブジェから外れてしまったものであるため、何らかの形で手がかりとなることは予想できるのではないかと思います。しかし、犯人の特定において大きな役割を果たしている“曲がった硬貨”の“曲がった”という特徴が、“曲がった男”や“曲がった猫”などの存在によって目立たなくなっているところがよくできています。
犯人がスケープゴートに罪をなすりつけるために組み立てた芸術論の罠は非常によくできています。マットの芸術家としての虚栄心を巧みに刺激しているところも見逃せませんが、やはり批評と創作のねじ曲がった関係が鮮やかです。
- 「パンキー・レゲエ殺人{マーダー}」
- かつて別の作品のネタバレ感想にも書いたことがあるのですが、利き手を手がかりとするのは正直いかがなものかと思います。
右利きの人にとっては絶対的なものに思えるのかもしれませんが、自分の経験からいえば訓練によってかなりどうにでもなるものなので、利き手による人物特定には大いに不満があります。例えば、ジョディは右手に煙草を持っていたために容疑者から排除されていますが、ナイフ(バラクーダ)やギター(ハウィーとシュガーボーイ)ならばともかく、煙草は必ずしも利き手で持つ必要はないでしょう。また、作中に登場する右とじの小切手帳も、右手に署名用のペンを持ったまま小切手を切り取ることができるという右利きの人物にとってのメリットがあるのですから、直ちに左利きの人物が使っていたとはいえないのではないでしょうか。
ただ、いかにも下手そうな(失礼)ピンクに不協和音を奏でさせることで、バスターのギターの弦の張り方が逆になっていることを隠しているあたりは、なかなかうまいものだと思います。
バスターの切り取られたドレッドロックについては、作中でも触れられているサムソンとデリラのエピソードを知っていれば見当はつけやすいでしょう。しかし、それがバスターとハーブズマンの誤認につながったところは面白いと思います。
2003.06.23再読了 |
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