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キッド・ピストルズの妄想/山口雅也

1993年発表 創元推理文庫416-03(東京創元社)
「神なき塔」
 自分が塔の上から落ちる代わりに“地球”を塔の上へ“墜落”させるという、ダンプリー博士のアイデアが印象的です。かなり無茶ではあるのですが、それなりに筋は通っているようにも思えるもので、まさに“狂気の論理”というべきでしょう。
 そのダンプリー博士の計画を生かした犯行は、“ただ乗り”という印象でやや物足りなく感じられます。人物誤認トリックは面白いと思うのですが……。

「ノアの最後の航海」
 さりげなく書かれた“今度はXが呟いた”(文庫版261頁)という文章が、何ともいえないブラックなものを感じさせます。
 八人のいとこたちを揃えることで自分一人分の遺伝子を残そうというノアの妄念に対して、“八分の一殺人”によってその妄念を打ち砕こうというシドニーの復讐。双方ともに歪んだ論理に基づいているところが印象的です。
 ちなみに、ノアの計画は実際には成立しません。すべての遺伝子の八分の一がいとこと共通する可能性があるのは確かですが、それがどの八分の一かがわからない以上、ノアの遺伝子のすべてが揃うとはいえないのです。

「永劫の庭」
 宝探しゲームとの絡みから、伯爵自身の意思が事件に関わっていることは予想できるのではないかと思いますが、庭園の美学と結びついた真相が秀逸です。また、“首切りの論理”が非常によくできています。

2003.06.24再読了

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