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キングレオの冒険/円居 挽

2015年発表 (文藝春秋)
「赤影連盟」
 まず、“2月8日  アカイカゲ ワタシハコイツニコロサレル(21頁)という“予言”が巧妙で、(日付はずれているものの)被害者自身の死を予知したものと思わされてしまいますが、実はミステリの題名だったところにニヤリとさせられます。
 大量のトリプルタップの話が出てきたところで、“予言”が盗聴の結果だと見当がついてしまうのがやや拍子抜けですが、そこからノミ行為につながっていくところはよくできていますし、大河が最終候補に残っていたミステリー大賞の選考結果が賭けのために歪められるクライマックス――さらにはかつて獅子丸が落選した真相まで明らかになる結末がお見事です。

「踊る人魚」
 “踊る人魚”が若者を対象としていることから、大河はまずモスキート音というアイデアをひねり出していますが、そこから獅子丸が大河をいじめるために持ち出したモスキート音発生装置が、最後に効果的に使われている――犯人を特定する“決め手”にまでなっているところがよくできています。
 キーワードの“踊る人魚”とカクテルパーティー効果を組み合わせた暗号は、キーワードを念頭に置かなければ何の変哲もないアナウンスとしか思えないところが実に巧妙です。
 ところで、作中では“昨夜封を切ったばかりの銘柄を何故また買いに行かせた?”(89頁)という疑問が、大河にとって解明の糸口になったようにも読めますが、これはちょっとよくわかりません。

「なんたらの紐」
 人物の配置から何から「まだらの紐」さながらの物語ですが、トリックは当然ながらまったくの別物で、ホームズ譚ではなく別の海外古典のオマージュとなっているのが面白いところです。“かのドアノブ外し(155頁)といえばもちろん(作家名)カーター・ディクスン(ここまで)(作品名)『ユダの窓』(ここまで)ですし、凶器の二酸化炭素(作家名)ジョン・ディクスン・カー(ここまで)(作品名)『連続殺人事件』(ここまで)が有名ですが、この作品では被害者をベッドではなく布団に寝かせることによって、トリックの難点を解決してあるのがうまいところです。
 また、序盤のクイックディテクティブで扱った事件とセットの交換殺人となることで、犯人のアリバイが確保できないという(「まだらの紐」と同様の)問題をクリアしてあるところが(常套手段とはいえ)よくできています。しかし、犯行に使われたゴムホースを指しているかとも思われた*1“なんたらの紐”が、“(明衣子の)ヒモ”だったという真相には、苦笑とともにやや脱力。

「白面の貴公子」
 「白面の兵士」に通じる謎に対して、大河が尋ねた人々の大半――雨新塾の受付の女性、塾生の彩家少年、ゲームセンターの店主については、それぞれに納得できるだけのとぼける理由が用意されており、その中に生活指導担当の教師・角谷が埋没してしまうのがうまいところで、手がかりをしっかり隠蔽する巧みなミスディレクションといえるでしょう*2
 〈ルヴォワール・シリーズ〉で主役の一人をつとめていた城坂論語が、名探偵に対する“モリアーティ教授”の役どころとして登場してくるのに驚かされますが、思いのほか違和感がないのがさすがというべきでしょうか。

「悩虚堂の偏屈家」
 まず、獅子丸が主張しようとする論語のアリバイが巧妙で、現場となった悩虚堂が電波を遮断する特殊な構造ということで、通常では“弱い”携帯電話での通話が現場不在の証明となるのがユニークです。しかしそのアリバイが、大河が書いたミステリのネタを使ったものだった*3という落とし穴が最悪で、論語のトリックスターぶりが存分に発揮されているのがすごいところです。
 かくして、真正面から真相解明に挑むことになった獅子丸ですが、裏返しのレインコートについての推理が実に鮮やかですし、殺された城坂慈恩の殺人計画が明るみに出ることで、事件の構図まで“裏返し”になるのが秀逸です。
 犯人は、慈恩の身代わりをつとめることができる人物ということになり、(我鷹敬をレッドへリングとして)失踪した城坂天央……かと思いきや、老探偵・河原町義出臣その人が告発されるのに仰天。実のところ、“見かけより体重が軽い”だけではいくら何でも手がかりが足りないのですが、そこは超人探偵キングレオのことですから許容すべきところでしょうか。義出臣が天央ではなく慈恩だったというどんでん返しまで用意されているのは、作者らしいところだと思います。

*1: 獅子丸は“このホースが今回の『まだらの紐』というわけだ。”(157頁)と口にしていますが、これはあくまでも“凶器”という意味でしょう。
*2: 元ネタの「白面の兵士」の内容がまったく記憶にないので、そちらでどのように扱われているのかわかりませんが……。
*3: 大河が用意していたトリックがどのようなものか気になるところですが、この状況をトリックで成立させるのはかなり難しそうな気がします。

2015.07.01読了