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  4. ここに死体を捨てないでください!

ここに死体を捨てないでください!/東川篤哉

2009年発表 (光文社)

 “三日月池”に捨てられたミニクーパーと山田慶子の死体が“消失”した謎は、香織と鉄男の視点を通じて不可解さが強調されてはいるものの、“三日月池がもう一つある”という(ある意味)定番の解決は、ある程度ミステリを読み慣れた方であれば予想がついてしまうのではないかと思われます。

 しかしその、青松川沿いの“もう一つの三日月池”という解決が、提示されるや否や完膚なきまでに否定されてしまうのが面白いところです。そして、死体が捨てられた“三日月池”が見つからないという事実を手がかりに、“三つ目の三日月池”が存在した*1という真相が導き出される展開、ひいては存在しないはずの“三つ目の三日月池”が鉄砲堰のトリックを裏付ける根拠となっているのが非常に秀逸です*2

 その鉄砲堰のトリックは、あまりに大掛かりすぎてコストパフォーマンス(?)がよくないという印象を与えますし、それだけ露見してしまう危険性が高いともいえますが、アリバイトリックとしてはなかなかユニークなものだと思いますし、雪次郎が夜釣りをする正確なポイントを知る必要がないというメリットも見逃せないところです。

 そして何より、香織と鉄男が捨てたミニクーパーと犯人のトリックとが結びついて、“自身が使ったものと同じトリックによって、自身が殺した被害者に殺害される犯人”というとてつもない趣向のインパクトは、これ以上ないほど強烈です。しかも、鵜飼の“単なる偶然ではない”(317頁)という言葉通り、鉄砲堰によってできた“三日月池”にミニクーパーが捨てられたという事実からすれば必然ともいえるもので、本書の全編がこの凄まじい結末に向けて周到に組み立てられているのが実に見事です。

*1: ちなみに、同じように“三つ目”が存在したというトリックには前例があったと思うのですが、残念ながら作品名が思い出せません。心当たりのある方はご教示いただければ幸いです。→小笠原さんからいただいたメールでおぼろげに思い出したのですが、どうやらエラリイ・クイーンの某作品((以下伏せ字)『最後の一撃』(ここまで))のようです。ご教示ありがとうございました。
*2: 正確にいえば、鉄砲堰のトリックを解明するための手がかり(につながる手がかり)として、死体とミニクーパーの消失という“定番”の謎が盛り込まれた、ということでしょう。

2009.08.28読了