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甲賀忍法帖/山田風太郎

1959年発表 講談社文庫 や5-7(講談社)
〈忍法勝負・戦評〉

 全般的にみて、夜叉丸や筑摩小四郎らを筆頭に高い戦闘能力を誇る伊賀方に対して、相手の油断や隙を突いた不意打ちを旨とする甲賀方という風に、両派の忍法のカラーがはっきりとわかれているのが面白いところです。

甲賀弾正 vs お幻
 最初の戦いがいきなり不意打ちというのはやや拍子抜けですが、これは甲賀の戦闘哲学を頭領自らが体現しているということなのかもしれません。
 甲賀方にとっては、圧倒的に有利な立場を手にするチャンスだったのですが、それがあっさりと逆転してしまうのがよくできています。

風待将監 vs 小豆蝋斎・蓑念鬼・筑摩小四郎・蛍火
 1対4でほぼ互角の戦いを繰り広げている将監。小四郎や蝋斎らの遠距離攻撃が封じられているのがポイントです。

地虫十兵衛 vs 薬師寺天膳
 手も足もない十兵衛の必殺の不意打ちは非常にトリッキーです。そして、相手に知られたら終わり(知る時には相手は死んでいる)という十兵衛と、死んでも生き返る天膳という組合せが絶妙。これ以外の組合せは考えられません。

鵜殿丈助 vs 雨夜陣五郎
 この戦いには、今ひとつ納得いかないところがあります。丈助は普通に刀で殺されてしまっているわけで、“鵜殿丈助の敵は、まさに雨夜陣五郎”という言葉とはそぐわないように思えます。
 ちなみに、せがわまさき『バジリスク』ではこの点がうまく処理されています。

如月左衛門・霞刑部 vs 夜叉丸
 敵地への潜入と情報収集にはうってつけのコンビ。特に、刑部の“ステルス攻撃”は非常に強力です。

お胡夷 vs 小豆蝋斎
 全身の皮膚を吸盤と化すことができるお胡夷が、蝋斎の武器である、自由自在に伸縮し、柔軟に折れ曲がる手足を見事に封じています。これもまた組合せの妙というべきでしょう。

お胡夷 vs 雨夜陣五郎
 蝋斎に続いて倒される寸前、場所が塩蔵だったために命拾いした陣五郎。次の念鬼まで含めて、まったく同じ状況に陥りながら、少しずつ結末が違えてあるところが巧妙です。

お胡夷 vs 蓑念鬼
 “吸盤攻撃”がまったく通用しない唯一の相手に当たってしまったのが、お胡夷にとっては不運でした。

甲賀弦之介 vs 筑摩小四郎
 小四郎の忍法も弦之介の瞳術の前には通用せず。朧の破幻の瞳によって威力が抑えられたために、命拾いしたということでしょう。

室賀豹馬 vs 蓑念鬼
 某所でも指摘されていますが、これだけバラエティに富んだ忍法が登場する中で、最後に明らかになる豹馬の能力が既出だというのには意表を突かれます。しかも、盲目の豹馬に瞳術という意外な組合せがお見事です。

如月左衛門 vs 蛍火
 左衛門絶好調

霞刑部 vs 雨夜陣五郎・薬師寺天膳・朱絹
 陣五郎の最期は印象的ですが、海が命取りになるということがその直前にはっきりと書かれている(講談社文庫版216頁)ため、予想がついてしまうのがもったいないところです。“塩に溶ける忍法”というだけで伏線は十分だと思うのですが……。
 朱絹の忍法は使い方が難しいようにも思えるのですが、この戦いでは非常に鮮やかな効果を生み出しています。と同時に、滅形の術を破綻させるほどの動揺を刑部にもたらした天膳の復活劇も、効果的に使われています。

室賀豹馬 vs 薬師寺天膳
 天膳も弦之介に気を取られ過ぎです。とはいえ、死んでも復活できる天膳としては、多少やられても構わないという気持ちが常にあるのは間違いないでしょう。むしろ伊賀方としては、天膳の能力を最大限に生かすために情報収集役(敵の忍法を受けて、その情報を味方に伝える)に専念させるべきだったのではないでしょうか。

室賀豹馬 vs 筑摩小四郎
 自らが盲目であるため、小四郎もまた盲目であるということに気づかなかった豹馬の悲劇。

如月左衛門・陽炎 vs 筑摩小四郎
 左衛門と陽炎の見事なチームプレーが光ります。左衛門が朱絹の顔を写し取る機会はなかったわけですが、盲目の小四郎が相手ということで、声色だけで十分だったのがポイントです。

如月左衛門・陽炎 vs 朱絹
 無理もないのかもしれませんが、朱絹もあまりにも迂闊です。左衛門の忍法はすでにわかっているのですから、一人で戻ってきた天膳はとりあえず殺しておくべきでしょう。本物ならば、後でちゃんと生き返ってくるのですから。

如月左衛門 vs 薬師寺天膳
 さすがの左衛門といえども、これは仕方ないところでしょうか。

陽炎 vs 薬師寺天膳
 “天膳に化けた左衛門”になりすます天膳。このひねり具合が何ともいえません。

甲賀弦之介 vs 薬師寺天膳
 忍法勝負を一人で引っかき回したトリックスター・天膳。ここぞという時に足を踏み外すという最期は、天膳にふさわしいものといえるでしょう。

甲賀弦之介 vs 朧
 弦之介の瞳術と、朧の破幻の瞳。いずれもオールマイティともいえる能力の、どちらが勝利を収めるのか……と読者の興味をひいておいて、この、何とも印象深い結末を持ってくる作者の手腕には脱帽です。弦之介の瞳が開く前に自ら命を絶った朧、そして朧の勝利という結果を人別帖に記してやはり命を絶った弦之介。恋人たちの哀しい運命と、誰一人生き残ることのできなかった忍者たちのはかなさが、いつまでも余韻となって残ります。

2003.07.28再読了

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