もう教祖しかない!/天祢 涼
2014年発表 (双葉社)
〈ゆかり〉の500人目として名乗りを上げた橘真理佳が、〈隣教〉の教祖だったことには驚かされましたが、さらに宗教法人との合併による宗教法人格の取得という大技には脱帽です。〈隣教〉の過去の活動に絡めて“宗教法人と宗教団体が一つになる場合は法の適用を受けません。”
(208頁)と、よりによって朱雀会長の口を借りて伏線を張ってあるのも心憎いところです。
一方、意外にも探偵役をつとめることになった藤原桜子が指摘する“真相”は、物語をうまく収めるには最善の形であり、また朱雀会長への“反逆”で早乙女六三志が(心情的に)どちらの側に近いのか明らかともいえるので、さほどの驚きはありません。しかし、桜子が次々と挙げていく細かい手がかりの配置は実によくできています。
特に、藤原禅祐がUBS時代に使った“甲 次郎”という偽名の扱いが非常に秀逸。珍しい名字なので偽名としては少々違和感を覚えはしたのですが、単独ではその意味がわからないところが巧妙で、六三志の父・耕治郎(107頁)と同じ音であるために六三志が忘れるはずはない、という解釈にはうならされます。タッチタイピングの音(233頁)とキズナブックのサーバーダウン(204頁)も同様で、組み合わせてはじめて意味がわかる手がかりをうまく分割してさりげなく配置してあるところに、作者の手腕が表れています。
2014.09.04読了