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ランプリイ家の殺人/N.マーシュ

Surfeit of Lampreys/N.Marsh

1940年発表 浅羽莢子訳 世界探偵小説全集17(国書刊行会)

 エレベータの機構がわかりにくく、手がかりもかなり地味なのであまり目立ちませんが、トリックはよくできていると思います。怪しい人物は見え見えですが、これでランプリイ家の一員が犯人となるようであれば、読者はかえって不満を持つかもしれませんね。


 ところで、解説を読めば“ランプリイ”に“ヤツメウナギ”の意味があることはわかりますし、裏表紙(カバー)に掲載された原書ジャケットを見れば、ゲイブリエルの死に様がヤツメウナギをさばく時のやり方からとられていることもわかると思います(日本でも、ウナギを割くときに同じようなことをしていますね)。つまり、事件全体が作者によるヤツメウナギの見立てになっているのです。

 ところが、作中では誰もこの見立てに言及していません(私が見落としていなければ)。この作品は“見立て殺人”テーマにもなり得たはずなのですが、なぜかそういう風には仕立てられていないのです。

 ここで注目すべきなのは、欧米のミステリにおける“見立て殺人”テーマの少なさです。いわゆる“童謡殺人”が殺人の起こる状況を童謡になぞらえているのに対して、“見立て殺人”を死体そのもので何かを表現することと定義すると、私の知る限りではE.クイーン『エジプト十字架の秘密』(作中でエラリィが見立てに言及している)くらいしかないように思います。殺人以外の事件まで広げても、すぐに思い出せるのはA.クリスティ『ヘラクレスの冒険』くらいです(このあたりは私の乏しい知識をもとに書いているので、他に例がありましたらご教示下さい)

 もしかすると、欧米(特にキリスト教文化圏)では暗黙の了解で、死体を使った見立てが死者の冒涜、忌むべき行為とされているのかもしれません。少なくとも、直接言及することを避けざるを得ない程度には。そう考えると、作者がそれとなく暗示する程度にとどめている意味が理解できるようにも思います。

2002.01.22読了

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