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レイトン・コートの謎/A.バークリー

The Layton Court Mystery/A.Berkeley

1925年発表 巴 妙子訳 世界探偵小説全集36(国書刊行会)

 最も印象に残るのは、やはり“プリンス”でしょう(爆笑)。

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 さて、この作品ではシェリンガムの推理が様々な方向へと展開されていますが、ここには後の『毒入りチョコレート事件」のような多重解決の萌芽がみられます。真田啓介氏が「『毒入りチョコレート事件』論」で指摘しているように、多重解決を生み出す手段の一つに証拠(手がかり)の取捨選択があるわけですが、この作品でシェリンガムが“女性の髪の毛”という手がかりを見落とす一方で、“スタンワースのメモ”(「あの残忍なプリンス」)にこだわっているところなどは、手がかりの取捨選択の誤りによる間違った推理の典型的な例といえるでしょう。このような独自の方向性が処女作にすでにみられるのは、非常に興味深いところです。

 ところで、この作品で使われた“ワトスン役が犯人”という設定は、発表された年代を考えるとかなり斬新なものだったのではないでしょうか。C.ドイル描くところの本家ワトスンと違って語り手ではないというのが惜しまれるところで、翌年に発表された有名な某作品(以下伏せ字)A.クリスティ『アクロイド殺し』(ここまで)ほどの衝撃を与えることができなかったのは残念です。

2003.01.14読了

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