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レオナルドの沈黙/飛鳥部勝則

2004年発表 創元クライム・クラブ(東京創元社)

 第一の事件、枠井の死が自殺だという真相はまあいいのですが、波紋がそれを“予告”したトリックはつまらないものに思えます。奇術と同様、得てしてそういうものだとわかってはいるのですが、現象の鮮やかさとの落差が残念。また“さかさま”の謎の真相については、赤瀬川原平『宇宙の缶詰』や枠井自身のエッセイ集『この手の中の世界』といった伏線がよくできてはいるのですが、それだけにさほど衝撃的なものではなく、やや物足りない印象が残ります。

 一方、第二の事件では、犯行現場の錯誤とバカトリック(失礼)による死体移動はなかなか面白いと思います。ただ、波紋の“予告”の真相はやはり今ひとつですし、金銭目当てという動機も面白味に欠けます。また、波紋の言葉から、真壁は犯行を目撃されていたことに気づきそうな(そして何らかの手を打ちそうな)ものですが、そのあたりがはっきりしないところも気になります。

 自殺と殺人に加えて、三木田による恐喝事件も絡み、そこに細かい伏線やミスディレクションが加わることで、全体的に必要以上に複雑になり、雑然とした印象になっているのは否めないところです。

 〈序章〉などの“T・真壁”はあまりにも露骨なので、“真壁朋江”なのだろうとは予想できたのですが、真壁辰巳ではない別の真壁氏と結婚したとなると、ややあざといものに感じられます。ただ、“T・真壁”をそのまま真壁辰巳だと思う読者にとっては真壁辰巳がワトスン役だと印象付けられるでしょうし、“真壁朋江”を見抜いたとしても真壁辰巳が犯人ではないという先入観を持たされるのには違いありませんから、ミスディレクションとして有効であることは間違いないでしょう。

 しかし何といっても、〈読者への挑戦〉の大胆な罠には驚かされました。真犯人以外の名前が列挙されたあの部分は当然のように読み飛ばしてしまったのですが、その中から犯人を特定するのが文字通り“不可能”だったとは……。はっきりと宣言されているだけに、悔しい思いで一杯です。

2005.02.08読了

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