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生ける屍の死/山口雅也

1989年発表 創元推理文庫416-01(東京創元社)

 この作品では“死者の復活”という特殊な設定がうまく使われているわけですが、まず見逃してはならないのは、死者がよみがえる世界では、死者が生者になりすますことができるということでしょう。これによって、ある人物がいつ死亡したのかがわかりにくくなってしまうのです。殺されてしまったジョンの計画もこの現象を利用したものですし、グリンがどうやって毒を飲んだのかがうまく隠されているのも、モニカとジョンがすでに死んでいることがわからなかったためです。そしてまた、霊園が舞台となっていることで、生者になりすますためのエンバーミング技術が自然な形で使われているのも秀逸です。

 その、ジョンの計画もまた巧妙です。遺産相続のために死亡時刻の前後関係を入れ換えるというトリックには先行例があるのですが、被害者自らが死亡時刻を遅らせるというのは空前絶後でしょう。そして、その後の逃亡劇にも十分な説得力があります。

 死者が復活する世界における殺人の意義、すなわち犯人の動機は、被害者が復活するか否かを確認するためという、特殊な世界を前提とした見事なものです。最後の審判を信じているモニカにとって、殺人という行為は、その人物の罪が赦されるかどうかを確認する手っ取り早い手段なのです。そして、モニカ自身が一度死んで復活した、すなわちすでに赦された立場であるために、殺人に対する抵抗も失ってしまったのではないでしょうか。

2003.04.29再読了

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