ミステリ&SF感想vol.60 |
2003.04.30 |
『十三角関係〈名探偵篇〉』 『ある詩人への挽歌』 『テクニカラー・タイムマシン』 『完全殺人事件』 『生ける屍の死』 |
十三角関係 〈名探偵篇〉 山田風太郎ミステリー傑作選2 山田風太郎 | |
2001年刊 (光文社文庫や23-2) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
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『十三角関係』 少女に妓楼への道を尋ねられ、荊木歓喜は彼女をそこまで送っていくことになった。だが、その妓楼では奇怪な事件が起こっていた。店の名物である大きな風車の羽根に、バラバラにされた女の死体がくくりつけられてゆっくりと回っていたのだ……。
被害者は妓楼の女主人で、その死亡時刻前後に相次いで彼女の部屋を訪ねた複数の人物に容疑がかかったのだが、捜査は意外に難航する。被害者は誰からも憎まれることなく、犯行の動機がまったく見当たらないのだった……。 ***
冒頭のバラバラ死体の登場こそ派手ですが、その後しばらくは関係者の証言が続き、やや地味な印象を受けます。しかし、次第に浮かび上がってくる被害者の特異な人物像は印象的ですし、それによって一層謎が深まっていくところもよくできていると思います。
やがて迎える急展開にも半ば唖然とさせられますが、荊木歓喜が数多い登場人物の中から最後に指し示す、あまりにも意外な犯人には度肝を抜かれます。そして明らかになるのは逆説的ともいえる動機、さらにそのまま衝撃的なラスト。本格ミステリとして至極オーソドックスな骨格を持ちながら、“オーソドックス”という言葉とはかけ離れた強烈な印象を残す傑作です。 2003.04.11読了 [山田風太郎] |
ある詩人への挽歌 Lament for a Maker マイクル・イネス | |
1938年発表 (桐藤ゆき子訳 現代教養文庫3039・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] スコットランド語で書かれた部分の翻訳が困難なため、長い間“幻の名作”とされてきたという作品です。複数の登場人物の手記によって構成されていますが、語り手ごとにかなり雰囲気が違っており、全体的に見て面白いものに仕上がっています。特に序盤(とラスト)を担当するキンケイグ村の靴直し・ベル氏の語り口は味があり、なかなか事件が起こらないこともさほど気になりません。
やがて起こる城主の墜死事件は、一見かなりシンプルですが、その背後には作者の巧妙な企みがひそんでいます。特に、次々と驚きがもたらされる終盤の展開は圧巻です。まさに“幻の名作”の名に恥じることのない傑作といえるでしょう。 2003.04.24読了 [マイクル・イネス] |
テクニカラー・タイムマシン The Technicolor Time Machine ハリイ・ハリスン | |
1967年発表 (浅倉久志訳 ハヤカワ文庫SF193) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] モンキーパンチによるイラストがぴったりはまった、抱腹絶倒のユーモアSFです。タイムマシンを映画の制作に使うという発想からしてユニークですが、監督をはじめとするスタッフや現地人たちが繰り広げるドタバタはユーモラスで、ページを繰る手がなかなか止まりません。また、トラブルに悩まされ続ける主人公・バーニイと、何事にも悩まされず大らかに生きる現地人・オッタルという二人の対照的な姿を通じて、現代と過去の世界が対比されているのが印象的です。
当初は過去の改変やタイムトラベルの原理などにまったく頓着することなく、ひたすら映画の撮影に邁進していたバーニイが、次第にタイムパラドックスを体験して困惑を深めていくのも面白いところです。特に、会社の命運がかかったぎりぎりの場面では、タイムマシンの設定もうまく絡めて見事なクライマックスが演出されていますし、ラストもまた鮮やかです。 いずれにせよ、ひたすら肩の力を抜いて楽しめる快作に仕上がっていることは間違いありません。SFをあまり読み慣れていない方にも絶対におすすめの作品です。 2003.04.25再読了 [ハリイ・ハリスン] |
完全殺人事件 The Perfect Murder Case クリストファ・ブッシュ | |
1929年発表 (宇野利泰訳 新潮文庫 赤136・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 上の紹介でもおわかりのようにアリバイ崩しが中心となった作品ですが、アリバイトリックそのものはかなり身も蓋もない脱力系で、思わず苦笑させられてしまいます。ただ、細部に至るまで巧妙な犯人の計画や、その“脱力系トリック”を成立させるために作者が施した仕掛け、さらに非常に大胆に配置された手がかり(ややアンフェア気味ですが)などはなかなかよくできていると思います。
予告通りに事件が起こってからはひたすら地道な捜査が続きますが、警察と民間会社の競争/協力の様子は面白いと思いますし、捜査陣をはじめとした登場人物たちも個性豊かに感じられます。特に第17章で描かれた、身分を隠したフランクリンと容疑者とのスリリングなやり取りは必見です。 アリバイトリックに期待しすぎなければそこそこ楽しめる、大胆不敵な怪作といっていいのではないでしょうか。 2003.04.27読了 [クリストファ・ブッシュ] |
生ける屍の死 Death of the Living Dead 山口雅也 | |
1989年発表 (創元推理文庫416-01) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 山口雅也のデビュー作にして、全編が“死”に彩られた怪作/傑作です。霊園が舞台となり、死者がよみがえるという設定である以上、当然ともいえるのですが、かなり分量のある作中に注ぎ込まれた“死”にまつわる様々な蘊蓄はやはり圧倒的。そしてその上に構築されるのは、死者が復活する世界における殺人事件という、逆説的ともいえる物語です。殺された人間がよみがえることで、殺人という行為の意義が失われてしまっているかのように思える世界の中で、犯人はなぜ殺人を続けるのか。この、特殊な設定ゆえの風変わりな謎は、この作品の大きな魅力となっています。
そして、特殊な設定と組み合わされながらも、物語はあくまでも本格ミステリの骨格を備えています。全編にちりばめられた手がかりが、設定に基づく独特のロジックによってつなぎ合わされ、真相が明らかになっていくというプロセスは、まさに“異世界本格ミステリ”の醍醐味。しかも、明らかにされたその真相は、それ自体がこれ以上ないほど強烈な輝きを放っています。 また、復活して逃げ出した被害者を追いかけなければならない捜査陣の困惑など、死者の復活という現象によってもたらされるどこかユーモラスな不条理感も見逃せません。特に、 「あんた、聞いててくれなかったのか……」「すまん、ちょっと、死んでたんでな、全然聞いてなかった」(568頁)という珍妙なやり取りなどは、ミステリ史上屈指の名(迷?)場面といえるでしょう。 2003.04.29再読了 [山口雅也] |
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