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デッド・ロブスター/霞 流一

2002年発表 (角川書店)

 オーディション形式の犯人指摘は非常にユニークですが、そのロジックもなかなかよくできています。

 まず“一次審査”ですが、予想外の着眼点が秀逸です。石油ストーブの隣にあるポリタンクの中には灯油が入っていると考えるのが自然ですから、あらかじめ中身を知っていた可能性のある人物、つまり掃除に参加した人物に絞り込むことには十分納得できます。

 次の“二次審査”には問題があります。誰も眼鏡をかけていないため、割れたのは時計のガラスだという結論が出されていますが、実際にはコンタクトレンズ(ハード)という可能性もあるはずです。したがって、時計が壊れていない波多野と、腕時計をはめることができない窪を直ちに除外するのは危険です。

 最後の“最終審査”はまずまず。ドアが施錠されていればわざわざを使う必要はないわけですし、鍵のありかを知っていればそちらを使うのが自然でしょう。したがって、伊勢が鍵を持っていたことを知らない人物が犯人という結論は妥当だと思われます。

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 トリックについては、特に伊勢殺害の事件が問題かと思います。壁に何かが刺さった跡や血痕が残っていたことから、壁に(偽の)凶器である鎌の刃が刺さっていたという結論を導くのはいいと思いますし、わざわざ楔が使われていたことから、ドアが施錠されていたのではなく鎌の刃が引っかかっていたのだと推理するのも妥当です。ただ、実際の凶器がもっと小さな鎌の刃だったという真相に至るには、だいぶ飛躍があるように思います。先に犯人がアリバイのある八巻だと特定されたために、彼に可能な犯行方法をひねり出したという感じで、裏付けはまったくありません。かなり気になってしまうところです。

2002.09.25読了

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