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凶鳥の如き忌むもの/三津田信三

2006年発表 ミステリー・リーグ(原書房)/講談社ノベルス(講談社)

 十八年前の事件の真相は、結局のところは“最後に生き残った人物の犯行”ということでさほどでもありませんが、動機となった“狂気”はなかなか強烈なものですし、その事件が現在に及ぼす影響――より正確にいえば、性質の異なる三つの事件(十八年前の事件・朱音の巫女の消失・立会人の消失)が相互にミスディレクションとなっているところがよくできています。

 中心となる消失については、実のところ、“チベット密教”というキーワードが出てきた時点(原書房版59頁/講談社ノベルス版54頁)鳥葬が頭に浮かんだのですが(“影禿鷲”という架空の巨鳥の存在もいかにもですし*1)、まさかそれほど短時間できれいに(?)骨になってしまうとは思いもよらず、仮説を捨て去ってしまいました。

 というわけで、真相にあまり驚きが感じられなかったのが残念ではありますが、最後に刀城言耶が指摘しているように“人間消失講義”で列挙されたパターンを微妙にはずしているところが秀逸です。死体の変形を介した消失という点では、バラバラ殺人(有名なところではカーター・ディクスン(以下伏せ字)「妖魔の森の家」(ここまで)など)に通じるところがありますが、誰もが“それ”を目にしながら元の人間と認めることができなかったという点で、あまり例のないトリックといえるでしょう*2

 さらに、そのトリックを成立させる――儀式を成功させるとともに真相を隠蔽する――ための、以下に列挙する細かい工夫が非常によくできています。

 そして、これらの工夫――とりわけ“太ったこと”と“ヨガの習得”――が、自ら“大鳥様”(影禿鷲)に食べられるというグロテスクな真相を補強して、物語に怪奇色が加わっている点が見事です。

*1: SFミステリなどで顕著ですが、“ミステリに特別に導入された(とりわけ架空の)要素は、トリックに不可欠である可能性が高い”という経験則があります。
*2: 厳密にいえば密室から“脱出”してはいないのですが、かなり近い前例として某アンソロジー(以下伏せ字)『37の短篇』もしくは『天外消失』(ここまで)に収録された海外短編(以下伏せ字)スティーヴン・バー「最後で最高の密室」(ここまで)があります。

2007.02.06 講談社ノベルス版読了
2009.04.30 原書房版読了 (2009.05.02改稿)