- 「原点」
- “真相”は単なる推測になっていますが、その推測、すなわち村山が犯してもいない罪を認めた理由には、説得力が感じられます。
ラストの篠塚の死は後の作品に関わってくるのかと思いましたが、そうではなかったようですね。
- 「それからの貌」
- この作品で示唆されている“真相”にはかなり無理があると思います。ホテルでの火災ということになれば、心中であっても“自分の死に他人を巻き込む”ことに他なりませんし、職場までわかっているのならばもっとやりようがあるはずです。逆に、他人を巻き込んでも構わないというのであれば、心中だったとは限りません。
- 「羽化の季節」
- 写真を使ってコピーを取るというトリックには、なるほどと思わされました。浅尾が愛川に殴りかかってきた理由にも説得力が感じられます。
- 「封印迷宮」
- 金にも快楽にも執着のない“サクラダ”が金塊奪取にこだわるのはなぜか。その真相は非常に鮮やかです。
- 「さよなら神様」
- 片足を失う羽目になったにもかかわらず、爆弾事件の犯人に感謝する真理子。この不可解さを感じさせる序盤は魅力的です。その真相はよくできていますし、電話のメモが残っていたこと、さらに真理子が横須賀線の上り電車に乗っていたことで、結果的に頼子殺しの容疑者とならなかったことも説得力があります。
そしてもう一つの、バイク事故のエピソードもよくできています。ワゴン車の運転手の一言から真相が論理的に導き出されているところも満足できるものです。
- 「六人の謡える乙子」
- この作品のアリバイトリックは、新本格系作家のある作品を思い起こさせますが、こちらの方がよくできているように感じられます。
- 「共犯マジック」
- “事件を通じて描く昭和史”というテーマから、“三億円事件”が登場してくるのは必然で、そこに驚きはありません(「さよなら神様」と「六人の謡える乙子」に伏線もありますし)。しかし、犯人の一人である木津が“村山”と名乗って「原点」の事件に関わっていたこと、さらには「プロローグ」で『フォーチュンブック』を買いそびれた客でもあったという真相は、よくぞ組み立てたものだと思います。そして彼が『フォーチュンブック』を求めた理由が明らかになってみると、蜷川に重傷を負わせたことも単なる裏切りではなく、さらに奥深い動機があったということで、『フォーチュンブック』に操られるかのような登場人物たちの運命が一層印象的なものになっています。ラストには“これから始まるのだ”と書かれていますが、『フォーチュンブック』に囚われたままの彼らがどのような行動をとるのか、まったく想像もできません。
2002.01.23読了
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