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仮面の男/ボワロ&ナルスジャック

Maldonne/P.Boileau & T.Narcejac

1962年発表 井上 勇訳 創元推理文庫337(東京創元社)

 すべての謎が読者に明らかになっているだけに、最後にどのような結末を迎えるかが興味の焦点となりますが、結局ジャックとジルベルトはすれ違ったまま、悲劇的な結末となっています。最後はジャックがあまりにもうかつだったともいえますが、マルタン(マルチン・フォン・クラウス)の計画が、その死後も止まることなく有効に機能してしまったという皮肉が何ともいえません。

 しかし、マルチン・フォン・クラウス暗殺計画の失敗を“わたしには正面切って眺めるのが愉快とは、とうていいえない真実(中略)わたしとしては、すでにしてしまったことだ”(7頁)で片付けられてしまっているのが心情的に納得できません。何の罪もない人間を殺しているのでは、ナチスと何ら変わるところはないといえるでしょう。作者としては、ジャックとジルベルトの命が虫けらのように踏みにじられてしまう悲劇こそが描きたかったのかもしれませんが。

2001.01.25読了

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