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忍びの卍/山田風太郎 |
1967年発表 講談社ノベルススペシャル(講談社) |
終盤に明かされる土井大炊頭の壮大な陰謀には驚嘆せざるを得ません。3人の忍者に対してごくシンプルな指示を与えるだけで、“空中楼閣”を築き上げてしまうその手腕には圧倒されますし、その巧みな弁舌(“忍法「口車」”と表現したくなります)と忍法“ぬれ桜”で他者を籠絡することに長けた虫籠右陣に扇動役を、厳重な警戒も無力化してしまう忍法“任意車”の使い手・筏織右衛門に暗殺役を、そして戦闘能力の高い百々銭十郎(と椎ノ葉刀馬)に防御役を割り振るという、それぞれの得意技や性格に応じた巧妙な配置も見逃せないところです。さらにいえば、最大の目標であった駿河大納言の抹殺だけでなく、御公儀忍び組を一派にまとめるというそもそもの目的も達成し、そしてまた見どころのある部下(椎ノ葉刀馬)に忍者の心得をたたき込むという、いわば“一石三鳥”の狙いも見事です。 まさに“怪物”というべき土井大炊頭に対して、その掌の上で踊らされていた椎ノ葉刀馬。その彼が唯一なし得た抵抗が切腹というのは、あまりにも哀しすぎる結末です。しかしそれは、圧倒的な存在である“怪物”に打ちのめされる一方で、“忠義”を盲目的に信奉するロボットのような立場にも甘んじることができない、ごく普通の“人間”としての葛藤に苦しんだ結果といえるのかもしれません。 2003.10.04読了 |
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