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迷蝶の島/泡坂妻夫

1980年発表 文春文庫378-2(文芸春秋)

 作品の[紹介]にはかなり苦労しました。怪しげな書き方になっていますが、嘘はないと思います。本書を最後までお読みになった方はおわかりのように、最初の段落に書いた“二人”は達夫と百々子で、次の段落の“二人”は達夫と桃季子を指しています。

 事件のそもそもの原因となった、名前の誤認による人物の取り違えは面白いと思いますが、不自然に感じられる部分もあります。文庫版24頁の自己紹介の場面がそれで、“トキコは磯貝トキコ。磯の貝、覚え易いでしょ、と笑った”と、“磯貝”という名字を説明するくらいならば、“桃季子”という珍しい名前に言及しないのは明らかにおかしいでしょう(これは百々子についてもいえることですが)。説明の必要のないありふれた名字であれば、名前の説明も省略してしまうのは十分考えられることですから、この問題は回避されたと思うのですが。

 達夫の手記については、非常によくできていると思います。特に、“殺したはずの桃季子の復活”という(達夫にとっての)幻想が描かれていることで、彼の錯乱という解釈が補強されているところが秀逸です。

 そして、その手記に仕掛けられた桃季子のトリックも、非常にシンプルで見事です。ただ、9月3日から一人で漂流していたはずの達夫が15日になってようやく手記を書き始めたことに、捜査陣の誰も疑問を抱いていないのは不自然ではないでしょうか。

2002.11.27再読了

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