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裁くのは誰か?/B.プロンジーニ&B.N.マルツバーグ

Acts of Mercy/B.Pronzini & B.N.Malzberg

1977年発表 高木直二訳 創元推理文庫256-02(東京創元社)

 衝撃(笑撃?)の真相ですが、やはりアンフェアといわざるを得ないでしょう。“マクスウェル”と“ジャスティス”が基本的に大統領とのみ言葉を交わしていること、そして大統領のいいつけ――?”“どういうことですか? 冗談なんでしょう?”といった、“ジャスティス”に対するブリッグズの台詞(65頁及び66頁)などは、いずれも伏線といえないこともないかもしれませんが、三人称でしっかりと書かれた“マクスウェル”と“ジャスティス”の存在感の前では、あまりにも力不足です。

 もちろん、それぞれの視点人物の主観においては“真実”が描かれているのですが、客観的には虚偽の記述(事実と反する記述)に他なりません。そして、三人称で書かれた文章がある程度の客観性を備えていると考えられるのが一般的である以上、“マクスウェル”と“ジャスティス”が存在しないという真相は、説得力を欠いたアンフェアなものになってしまいます。

 実際には、それぞれの視点からの描写も、他の登場人物との関係を考えると怪しいものになっています。例えば、大統領と“ジャスティス”の二人がそれぞれ門番と出会う場面(303頁〜305頁)などは、かなり無理があるのではないでしょうか。

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 フェア/アンフェアの問題はさておき、ただ一つの仮想人格ではなく“マクスウェル”と“ジャスティス”という二人を登場させて会話させることで、仮想人格の実在感を高めて真相を隠蔽しているところなどは実に巧妙といえるでしょう。

2003.05.22読了

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